イネ 苗立枯病

病原:Fusarium roseum Link : Fries f. sp. cerealis (Cooke) Snyder et Hansen
病原:Fusarium solani (Martius) Saccardo
病徴:フザリウム属菌による苗立枯病は,種もみの発芽直後から発生する。根および苗の地際部が褐変腐敗し,地上部は萎ちょうし,のちに黄化して枯死する。普通局部的に発生。罹病苗の地際部には白色あるいは紅色の粉状のかびが生える。
伝染:フザリウム属菌による苗立枯病は,土壌中の厚膜胞子が第1次伝染源となる。厚膜胞子は発芽してもみの傷口や出芽中の幼苗の傷口等から侵入する。病患部や地際部土壌の上に多数の菌糸や分生子を形成し,これが第2次伝染源となって周囲の健全苗へ伝染する。
苗立枯れはパッチ状に発生する。緑化期間中に10度を割るような低温に遭遇すると発生が助長される。人工培土では発生が少なく,干拓地のへどろ土壌,野菜や陸穂連作の黒色火山灰土壌では発生が多い。床土のpHが5.0以上では発生が多くなる。 水管理が適切でない場合発生が多くなる。
防除:育苗箱はケミクロンGの1000倍液に10分間浸漬後十分水洗いして使用する。
土壌酸度をpH5.0に矯正する。防除薬剤は,播種前に床土にカヤベスト粉剤,タチガレン粉剤,タチガレエース粉剤,フタバロン粉剤のいずれかを混和するか,播種時,出芽直後に薬剤をかん注する場合は,タチガレン液剤,タチガレエース液剤のいずれかを使用する。

病原:Rhizopus chinensis Saito
病原:Rhizopus oryzae Went et Prinsen-Geerligs
病原:Rhizopus arrhizus Fischer
病原:Rhizopus javanicus Takeda
病徴:出穂時に種もみのまわり,あるいは床土面に白い綿毛状のかびが点々と生え,育苗箱全面を被うほどになる。種もみの出芽は悪く,出芽しても,その後の生育は劣り,黄緑色に退色して苗は不揃いになる。 根は短く,先端が異常にふくらんで伸長が止まり,のちに褐変腐敗する。ひどい場合には苗は枯死する。根のマット層の裏側や種もみのまわりにリゾプス属菌の白い菌糸が密生している。
伝染:本菌の第1次伝染源は土壌や育苗施設・器材等である。出芽期間中の32度を超す高温多湿および緑化開始後10日ごろまでの低温は発生を著しく助長する。保水力の大きい土壌では砂壌土や人工培土に比べて発生しやすい。多窒素,高播種密度は発生を助長する。
防除:育苗箱はケミクロンGの1000倍液に10分間浸漬後十分に水洗いして使用する。
土壌酸度をpH5.0に矯正する。温度管理に注意し高温を避け,過湿,厚まきにならないようにする。防除薬剤は,播種前に床土にカヤベスト粉剤,ダコニール粉剤,フタバロン粉剤のいずれかを混和するか,播種時にダコニール1000をかん注する。

病原: Trichoderma viride (Persoon) Link ex Gray

病原:Mucor sp.
病徴:出穂後白いかびが床土面を被い,出芽や苗の生育が悪く,ひどい場合には苗は退色して白色ないし淡褐色になって枯死する。リゾプス属菌による苗立病よりも症状が軽い。
伝染:リゾプス属菌による苗立枯病に類似するが,リゾプス菌よりもやや低温側で発生しやすい。
防除:育苗箱はケミクロンGの1000倍液に10分間浸漬後十分水洗いしてから使用する。土壌酸度をpH5.0に矯正する。防除薬剤は,播種前に床土にカヤベスト粉剤,ダコニール粉剤,フタバロン粉剤のいずれかを混和するか,播種時にダコニール1000をかん注する。

病原: Phoma sp.

病原:Pythium graminicola Subramaniam
病原:Pythium spinosum Sawada
病原:Pythium irregulare Buisman
病原:Pythium sylvaticum Campbell et Hendrix
病徴:ピシウム属菌による苗立枯病の病徴には二つの型がある。一つは出芽後間もない幼芽が侵され根は水浸状に褐変腐敗して苗は枯死する。他は苗が2,3葉になってから急に萎ちょうし,のちに枯死するもので,根は水浸状に褐変する。
伝染:ピシウム属菌は,イネ,畑作物,野菜等の被害植物の組織中あるいは土壌中で卵胞子で越年し,翌年の伝染源となる。卵胞子は発芽して胞子のうを形成し,その中に形成された遊走子が宿主に達し,被のう胞子となり,発芽して気孔あるいは表皮を貫通して侵入する。
胞子あるいは胞子のうが発芽し,直接菌糸によって表皮あるいは気孔から侵入する場合がある。緑化期以降の低温によって発生が助長される。 「ムレ苗型」の発生は日照不足,土壌の高pH,土壌の細粒化・過湿,土壌の乾燥・過湿の反復,高播種密度等によって助長される。
ピシウム属菌は多犯性で畑作物や野菜畑の土壌中にはピシウム属菌が集積しており,このような土壌を床土に使うと苗立枯病が発生しやすい。
防除:育苗箱はケミクロンGの1000倍液に10分間浸漬後十分水洗いして使用する。土壌酸度をpH5.0に矯正する。防除薬剤は,播種前に床土にカヤベスト粉剤,タチガレエース粉剤,フタバロン粉剤のいずれかを混和するか,緑化開始時にフジワン粒剤を箱施薬する。

参考: イネ 苗立枯病 - 日本植物病名データベース

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