Ⅰ 農地の劣化と農業による環境負荷の実態

1.土壌の劣化

(4)肥料・有機物施用による過剰養分の蓄積

 この項は,「日本土壌肥料学雑誌・部門別進歩総説特集号」(土肥誌,64,1993)および「ハウス栽培における土壌の塩類集積回避法」(19)に文献の大部分を依拠した。

 現行農法の弊害のーつとして,家畜ふんによる環境負荷(9,12,13,17)ならびに資材多投入による土壌塩基の不均衡・塩類集積に関して研究成果の取りまとめがなされ(32),また,家畜ふん尿の施用が養分集積の見地から整理され(2),現行農法よる集約農業の問題点が例示された(34)。

 有機性汚泥の環境保全的評価及び農林業への利用に関しては,その研究成果がまとめられ(16),さらに,土壌の物質循環機能を保全するための下水汚泥施用土壌のモニタリング法が改訂され(1),広範な文献調査ならびに基準設定調査の結果(15)をもとに,銅,カドミウム,シアン,有機リン,鉛,6価クロム,ヒ素,総水銀,アルキル水銀,PCBの土壌環境基準が定められた。

 以下,土地利用形態ごとに述べる。

1)水田・畑土壌

 有機物の連用による養分集積の実態が調査され(8),乾燥豚ぷんを10年間にわたって多量に連用すると,土壌窒素を顕著に富化し,地下水への環境負荷が懸念されることが示された(18)。

2)露地野菜

 集約的野菜栽培地帯の養分集積が調査され(14),家畜ふん関連では,きゅう肥の連用によりリン酸が顕著に蓄積し(21),豚ぷん尿や魚加工工場の排水などC/Nの低い濃厚な排水を施用した土壌では,硝酸態窒素が蓄積し,コマツナの生育を阻害すること(3)が示された。

 汚泥関連では,各種土壌の汚泥施用土層から下層への養分溶出が認められ,環境負荷の恐れが示され(26),火山灰土壌における下水・し尿汚泥の連用試験試験による可給態リン酸と亜鉛の土壌蓄積量から,その施用限界が30~80t/haと推定された(4)。

3)施設園芸

 硫酸塩の集積している施設土壌の問題点が取りまとめられ(24,29,30),こうした施設土壌での窒素診断の問題点が整理された(22)。また,硝酸塩蓄積の原因が検討され(29),塩類集積とその回避対策が取りまとめられた(24)。さらに,多量に蓄積した土壌リン酸の脱吸着反応が各地で調査された(7,21,38)。

 個別の作物ごとには,バラ葉のクロロシスは土壌リン酸の過剰蓄積とその吸収に起因する鉄欠乏が(21),雨よけピーマンの生育阻害は土壌中のカリの蓄積が(37),それぞれ原因と診断され,さらに,イチゴ栽培ハウス土壌で,家畜ふん堆肥の連年施用により亜鉛,カドミウム含量の上昇が認められた(6)。

4)永年作物

 果樹園土壌では,クリ園に対する多肥は立枯症発生の危険度を増加させ(25),ミカン園でのきゅう肥連用に伴うカリウム蓄積によるマグネシウム欠乏症の発生が認められ(5),資材多投入等による要素過剰症の発生実態が整理された(10)。

 桑園土壌では,家畜ふん尿多投によって枝条の枯れ込みが多発し(35),下水汚泥(27),(31),し尿汚泥(36)の施用により亜鉛含量が増加することが示された。

 茶園土壌については,静岡県下ではpH3台が大部分を占めること(23),緩衝容量の大きい多腐植質黒ボク土壌においても,窒素の多投は土壌の酸性化を著しく促進し,アルミニウムの活性を増加させ(11),さらに陽イオン交換容量(CEC)の低下とアンモニウム窒素の吸着能を顕著に低下させる(33)ことが解明された。

                    (農業研究センター 上沢 正志)

  文 献

1)下水汚泥資源利用協議会,下水汚泥施用土壌のモニタリング方法(1989)

2)原田靖生,環境インパクトと農林生態系,農業環境技術研究所編,1990,158p.

3)Hirai,M.et al. Soil Sci. Plant Nutri.,36,397(1990)

4)深田久成ほか.大分農技セ研報,21,43(1991)

5)岩切 徹,松瀬政司.佐賀果試研報,10,47(1988)

6)岩崎貢三ほか,土肥誌,61,295(1990)

7)亀和田國彦ほか.栃木農試研報,35,63(1989)

8)片野 豊ほか.愛知農総試研報,20,342(1988)

9)小林義之,化学と生物,29,312(1991)

10)駒村研三.土肥誌,61,202(1990)

11)松内 順,鳥山光昭.茶研報要旨,70,65(1989)

12)松崎敏英.土の健康と物質循環,博友社,東京,1988,141p.

13)三輪睿太郎,岩本明久.土の健康と物質循環,117,博友社,東京

14)中司啓二.農及園,63,44(1988)

15)日本土壌肥料学会,土壌汚染環境基準設定調査に係わる総合解析調査(1990,1991)

16)農林水産技術会議事務局.研究成果,231,1989,150p.

17)農林水産技術会議事務局.研究成果,272,1992,

18)小川吉雄ほか,農及園,63,615(1988)

19)小野信一.農及園,69,888(1994)

20)小野信一,藤井義晴.土肥誌,65,62(1994)

21)大橋恭一.滋賀農試特別研報,16,29(1989)

22)猿屋嘉代,谷口 尚.高知農技研報,22,25(1990)

23)静岡県農業水産部.土壌診断 70 事例集,108(1989)

24)宗林 正ほか.奈良農試研報,21,34(1990)

25)杉本明夫,福井農試研報,25,1(1988)

26)隅田裕明 ほか.土肥誌,60,189(1989)

27)武井文子,柳沢靖浩.群馬農業研究B(蚕業),5,57(1988)

28)瀧 勝俊,沖野英男.愛知農総試研報,22,285(1990)

29)瀧 勝俊,沖野英男.愛知農総試研報,23,271(1991)

30)瀧 勝俊.農業技術,47,207(1992)

31)富田健夫ほか.茨城蚕試研報,45,27(1991)

32)土屋一成.土肥誌,61,98(1990)

33)内村浩二ほか.茶研報要旨,75,56(1991)

34)上沢正志.有機性廃棄物利用研究会,農業環境技術研究所,1992,17p.

35)山崎文幹.岐阜蚕誌要報,26,1(1989)

36)柳沢靖浩ほか.群馬農業研究B(蚕業),5,51(1988)

37)矢野輝人,小野 忠,大分農技セ研報,20,45(1990)

38)吉川義一,吉田撤志.高知大学術研報,農学,40,51(1991)