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Ⅱ 環境保全型農業技術

1.土壌の保全・養分管理

(3)肥料の利用率向上技術

3) 環境保全的施肥技術

ウ.野菜

 野菜を生産するうえで施肥管理は不可欠である。しかし、集約的な野菜生産地では土壌養分の集積がみられ、環境保全の見地からも施肥管理の見直しが求められている。ここでは、野菜に対する施肥管理技術のなかで環境保全的な技術に関する研究情報を要約した。なお、野菜に対する家畜ふん尿処理・利用技術に関しては、地力・生産性、野菜品質、病虫害防除、環境保全の項目で、最近整理されているので参照されたい(9)。また、農林水産研究文献解題「自然と調和した農業技術編」(19)には野菜関連の土壌生産機能維持向上技術、病害虫・雑草防除技術の項目も整理されている。野菜の環境保全的施肥技術は最近研究されつつあるもので、現段階では研究文献は多くない。

(ア)総論

 野菜生産における施肥管理の問題、環境保全も含めた最近の問題について整理されている(10)。野菜の施肥管理技術について歴史的に振り返り、野菜生産量と肥料資材の変遷や施肥量の増加傾向などを考察している。特に、野菜は稲や麦に比較してやや多肥傾向にあることや土壌中に養分集積傾向がみられ、さらに地下水汚染への懸念も問題視している。野菜畑の水質問題についてはいくつかの事例とともに施肥改善のポイントが整理されている(5)。

 野菜畑の土壌養分集積の実態について、リン酸や塩基ばかりでなく、電気伝導率(EC)値の上昇から硝酸態窒素の集積もすすんでいると報告されている(31)。そして、野菜はこれまでの障害とは異なり、要素過剰に伴う複雑化した生理障害がみられている。例えば、リン酸過剰に伴うカリウムやマグネシウムの欠乏、また水分環境の変化によるカルシウムやホウ素欠乏などが目立っている。これらのことは、野菜畑の土壌管理が不適切なためによることから、土壌診断技術の活用によって施肥管理の組み立てを図ることが重要であると指摘されている。野菜畑ではこれまでの畑土壌の診断基準では十分でない場合がみられはじめたことから、野菜栽培土壌の診断の設定するために関東東山東海地域で検討を行い、診断参考データや診断基準の作成などをとりまとめた公刊資料(15)があり、基本的な文献になっている。現在、その後の野菜畑の土壌診断に関する整理が必要とされている。

 一方、野菜生産の側からみると、野菜の養分吸収活動に見合う肥料の形態と量、そして時期が重要で、それらと肥料成分の供給状況とが適合すれば、肥料の流亡は少ないものと思われる。野菜の施肥管理は野菜にとって必要な成分の補給にある。したがって、まず野菜による養分吸収量の把握が重要で、これまでにいくつかの基本的文献がある(3,26,29)。しかし、最近の品種・作型・栽培管理の変遷から改めてこれらの情報を整理する必要性に迫られている。

 相馬(25)は野菜の生育からⅠ.栄養生長型、Ⅱ.栄養生長・生殖生長同時進行型、Ⅲ.。栄養生長・生殖生長転換型に分類し、Ⅰ群およびⅢ群の一部は野菜の収穫時においても土壌中に養分量が必要で、Ⅱ群では野菜生育過程においても土壌中の養分濃度はある程度維持されていることが必要であると論述している。すなわち、野菜畑の一部には生育過程中ばかりでなく、収穫後においても肥料成分が土壌中に残存している状況があり、養分吸収量よりも上回る施用量になってきていることと関連があるかもしれない。

 野菜の施肥技術に関する最近の進歩総説(27,30)があるので参照されたい。特に、連作条件下での塩類集積とその改善策、緩効性肥料の効果など環境保全関連も解説されている、

(イ)露地栽培

 野菜栽培における環境保全とともに持続的農業の問題点が整理され、特に露地栽培における連作障害や水質問題に対して、土壌診断、栄養診断とともに品種選択や輪作なども含めた総合技術の必要性について、いくつかの事例をもとに論述されている(6)。露地野菜畑でも肥料分集積がみられ、特に野菜畑土壌の下層における硝酸態窒素の集積傾向が指摘され、またその対策として施用量の適量域や上限値の設定が重要と指摘されている(17)。

 芝野ら(23)は、キャベツ連作畑における窒素溶脱に関する要因について明らかにした。溶脱される窒素は、ほとんどが硝酸態窒素で、黒ボク土壌では施肥窒素の40%に達し、さらに当月の窒素溶脱量は当月、あるいは前月の降水量に大きく影響を受けた。また、春先の窒素溶脱は前年秋の降水量にも大きく影響を受けていることも明らかにされた。また、緩効性肥料、硝酸化成抑制剤入り肥料、クリーニングクロップの利用による窒素溶脱の低減やマルチ栽培によるキャベツの養分吸収量の増加から窒素溶脱量は軽減されると考察されている(24)。

 野菜畑の地下水汚染の事例として、岐阜県各務原市台地の地下水汚染の原因解明と将来予測の報告がみられている(12)。この地域は上水道の水源を、すべて地下水に依存し、昭和40年代に硝酸態窒素による地下水汚染が確認された。そこで台地の地質、基盤構造、物質動態などの調査から地下水汚染の主因は窒素系肥料の過剰施肥にあると結論された。営農と地下水汚染の防止を両立させる活動が展開され、地下水の人工かん養、揚水の制限とともに過剰施肥の抑制をすすめ、さらに自家用井戸水で無料水質検査を行い、問題があれば上水道への切り替えなどを指導している。

 北嶋(14)は各務原台地ニンジン作に対して営農、環境保全の両面から施肥体系を見直した。特に問題の多い春夏作について、施肥量を約30%減らし、また現行肥料であれば2回の追肥、被覆肥料(緩効性肥料)を用いれば基肥1回の施肥法を確立した。これによって、窒素吸収量の少ない前半の施肥量を制限し、後半は地下部の吸収特性に応じた肥効を確保することによってニンジンによる窒素利用率を高めた。さらに、養分溶脱の多い春夏作の収穫後から冬作の播種までの期間に植物被覆がないのでクリーニングクロップを組み入れた輪作体系の導入についても論述している。

 塚本ら(32)もニンジン、ハクサイを栽培した跡には残存肥料成分が多く、降水量の多い夏期から秋期で溶脱も多くなるので、施肥・栽培法・作型などの対策が必要であると報告している。コムギは降水量の少ない冬から春が生育期に当たり、化学肥料中心の施肥でも増収して窒素溶脱は避けられる。また、環境保全的な施肥技術には作物による回収率を含めた評価が必要であるとした。

 上沢(33)は、農地の環境容量の視点から、作物による回収率が50%以上、その回収率が経年的に低下しないこと、浸透流出水の年平均窒素濃度が10mgN/1以下とし、火山灰土壌での野菜作では年間約30kgN/10aであると提言した。

 生態系活用型農業における野菜生産の現状と今後の方向が論議された(20)。その資料では、野菜の有機栽培地域における土壌診断の必要性、養分投入の実態と改善方向などとともに各県の現状などが報告されている。最近、ダイコン・トマトの省農薬・劣化学肥料栽培について品種、省農薬、雑草防除、有機物施用と品質などの面で論議されている(38)。特に、牛ふん籾殻堆肥の使用で化学肥料の50%の代替を可能にしたが、全量堆肥施用では3年目で減収し、多投入ではむしろ環境負荷につながることが明らかにされた。トマトではナタネ油かすで省化学肥料が可能とされている。地域重要新技術関連促進事業「生態系活用型農業における生産安定技術」の研究紹介のひとつで、今後この事業などによる研究報告は増えていくだろう。

 山田ら(34,35)は野菜の有機農業の技術的評価を行い、収量と肥料的観点から化学肥料と比較して有機質肥料や有機質資材を併用することで可能であるとした。すなわち、牛ふん堆肥のみでは夏作の収量には大差ないが、冬作キャベツ、レタスでは減収になり、土壌の経年変化および無機化窒素の推定量についても考察している。

 一方、重金属の問題では豚ふんきゅう肥の連用で全亜鉛と全銅の蓄積が認められたが、キャベツ中の含有率には差は認められない(13)。土壌中の亜鉛は環境管理基準を越えており、家畜ふん尿の野菜畑へのリサイクルには成分制御や使用制限の検討が必要であるとしている。

 下水汚泥の野菜作への利用は、サツマイモ、ハクサイなどで施用効果がみられ、毎年0.5t(乾物)程度であれば、可食部における重金属汚染は非常に少ない(39)。5年間にわたるホウレンソウ、キャベツなどに対する施用試験でも2t/10a施用で増収している。肥効は汚泥中の窒素、リン酸によるもので、6t施用ではアンモニア害、亜鉛障害の発生が指摘されている(11)。製紙スラッジの施用でキャベツの高収量が得られているが、スラッジの種類による差や重金属の土壌への集積傾向も明らかになっている(1)。下水汚泥の野菜に対する施用効果および影響は、農林水産研究文献解題No.15「自然と調和した農業技術編」(19)にも紹介されているので参照されたい。

 作物の病害発生と施肥との関係を解明することは環境保全の面からも重要である。ハクサイのゴマ症(16)が基肥窒素30kg/10aで多発し、発生株では硝酸態窒素が増加し、糖は減少していた。基肥を20kg以下にして追肥する方法や緩効性肥料の利用などの発生防止対策を提案している。また、貯蔵中に発生するタマネギの黒かび病は重粘土壌から産出されたものには発生は少ないのに対して、干拓地などから産出したものに多い(37)。重粘土壌で産出したタマネギは窒素が少なく、カルシウムが多い。一方、干拓地のタマネギにはマグネシウム、ナトリウム、カリウムが2倍含まれ、カルシウムが著しく少なく、特にクチクラ層に含まれるカルシウムの減少が本病の抵抗性に関係することが明らかにされた(27)。最近、トマトの青枯病抵抗性の発現に体内のカルシウム栄養が関係し、高度抵抗性品種でもカルシウム栄養が不足であると発病しやすいことなどが明らかになってきている(36)。この分野の研究推進は環境保全型農業の新たな展開に重要になろう。

(ウ)施設栽培

 施設園芸に関する文献解題は既にある(18)。このなかでは、養分集積の実態、除塩、診断・施肥、有機物施用などについてとりまとめられているが、環境保全面の指摘はまだない。花き生産における低投入・低排出の環境調和型施肥について最近の問題点が整理されている(8)。花きでは生理障害がでない程度に、やや多めに施肥が行われ、潅水や雨水で余分な肥料分が洗い流されながら、常に土壌中の肥料成分濃度が一定に保持されるようにしている。オランダでは地下水汚染が懸念されており、野菜および花きの施設栽培は養液栽培に移行し、そして2000年までには、すべて循環方式への転換が考えられている(21)。

 施設バラの土壌中の養分状態を絶えず調査し、低投入の施肥管理に役立てている事例(4)がある。バラの株間に土壌溶液を採取するためにポーラスカップを埋め込み、経時的に土壌溶液を採取して、その液の硝酸イオン濃度を簡易に測定を行っている。この結果、土壌溶液の管理によるバラ栽培では硝酸イオンの適正濃度は500~600ppmで、この管理によって養分過多によるバラの根やけがなくなり、収量や品質が向上するとともに肥料費が半減したと報告されている。また、土壌溶液の採取量が潅水量の目安にもなっている。しかし、品種などによっても適正濃度が若干異なるなど、今後ともこのようなデータの集積が必要である。バラのロックウール栽培における肥料成分の収支(28)は、バラによる窒素肥料の吸収率は約70%と高いが、施肥された窒素肥料の約23%、25kgN/10aが排出されている。この排液調節はロックウール培地内の濃度を一定に保つ上で必要な技術とされている。オランダの野菜・花きのロックウール栽培では掛け流し方式が主流であるが、環境保全対策の上から循環方式への移行(21)が考えられている。基本的には、施設野菜も同様と考えられ、野菜関連の研究情報が増加してくるだろう。

 循環式養液栽培装置による高糖度トマトの生産が可能になってきている(2)。ロックウール細粒綿培地を用いて根域を300mlと極端に制限し、開発した装置で茎葉のしおれを目安に給液管理を行うと、糖度10%以上のトマト生産が可能であった。果実は60~80gと小さくなり、収量性に問題は残されたが、排水液は集水ポンプで回収され再度利用された。

 キュウリの葉柄中の硝酸態窒素の栄養診断によって施肥量の節減を図っている報告がみられる(22)。14から16節位の葉柄を絞り器で汁液を抽出し、半促成および抑制キュウリの適正な窒素濃度を評価することで、キュウリ生産には多肥する必要がないことが明らかとなった。

 今後、土壌診断・栄養診断による施肥管理の適正化の研究情報が増えてくるであろう。

                     (野菜・茶業試験場 保科次雄)

   文 献

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2)石上 清ほか.根域を制限した循環式養液栽培装置による高糖度トマトの生産.静岡農試研報.38,61-72(1994)

3)速水昭彦、松村安治.そ菜導入による高度利用水田の肥培管理に関する研究.東海近畿農試研報.20,254-320(1970)

4)林 勇ほか.温室バラの土壌検定・施肥のための土壌溶液吸引法の利用.神奈川園試研報.42,21-27(1992)

5)保科次雄.野菜畑.農業技術大系土壌施肥編6.東京、農文協、追録第2号、1991、原理145-150

6)保科次雄.圃場と土壌.野菜栽培と持続的農業.No.10・11,59-66(1991)

7)保科次雄・野菜・施設栽培.土肥誌.64,560-562(1993)

8)保科次雄.低投入・低排出の環境調和型施肥.農業技術大系花卉編2.東京、農文協、1993,327-330

9)保科次雄.(4)野菜.農林水産研究文献解題.No.20.家畜ふん尿処理・利用技術.農林水産技術会議事務局編.東京、農林統計協会、1994,262-277

10)保科次雄.野菜生産における施肥管理の問題について.中部土壌肥料研究.79,13-26(1994)

11)伊藤淳次ほか.し尿処理汚泥の連用が作物および土壌に及ぼす影響.島根農試研報.25,83-100(1991)

12)各務原市地下水汚染研究会.各務原台地の地下水汚染の原因解明と将来予測.季刊環境研究.75,21-32(1989)

13)河合 徹ほか.堆きゅう肥の連用が黄色土及び黒ボク土畑土壌に及ぼす影響.第2報土壌緩衝能と重金属含量に及ぼす影響.静岡農試研報.38,99-106(1994)

14)北嶋敏和.黒ボク土壌における「にんじん」の効率的施肥.岐阜農総研センター研報.4,1-35(1991)

15)草野 秀.野菜栽培土壌の診断基準.土肥誌.53,60-68(1982)

16)松本美枝子.ハクサイゴマ症の発生とその防止法に関する研究.富山農技センター研報.11,1-92(1991)

17)中司啓二.集約野菜生産における肥料分集積問題.農業および園芸.63,44-48(1988)

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19)農林水産研究文献解題.No.15.自然と調和した農業技術編.農林水産技術会議事務局編.東京、農林統計協会、1989,291-438

20)農林水産省野菜・茶業試験場.生態系活用型農業における野菜生産の現状と今後の方向.平成3年度課題別研究会資料.1991,139p.

21)糠谷 明.ヨーロッパの養液栽培における21世紀に向けて.ハイドロポニックス.8,21-29(1994)

22)六本木和夫.果菜類の栄養診断に関する研究:第1報 葉柄汁液の硝酸態窒素に基づくキュウリの窒素栄養診断.埼玉園試研報.18,1-15(1991)

23)芝野和夫、大野芳和.露地野菜畑における窒素の溶脱:降雨の影響と溶脱の予測.野菜茶試研報.A2,201-208(1988)

24)芝野和夫.野菜畑における施肥管理と窒素排出の低減.耕草地管理に基づく窒素、リンの発生負荷低減に関する研究.農林水産技術会議事務局編.研究成果.272,145-149(1992)

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26)武井昭夫ほか.野菜の施肥.植物栄養・土壌・肥料大事典、高井康雄ほか編集.東京、養賢堂、1976,745-782

27)田中欽二.黒かひ病菌(Aspergillus niger van Tieghem)によるタマネギ鱗茎の腐敗に関する研究.佐賀大農彙.70,1-54(1991)

28)谿 英則、長谷川清善.温室バラのロックウールを利用した養液栽培:第2報5カ年間の生育、収量の変化と肥料成分収支.滋賀農試研報.34,10-17(1993)

29)徳永美治、安田 環.野菜作物比較生理.田中 明編.東京、学会出版センター、1982,196-220

30)土屋一成.野菜・施設栽培.土肥誌.60,560-561(1989)

31)土屋一成.農業資材多に伴う作物栄養学的諸問題:1.野菜および畑作物要素過剰の実態.土肥誌.61,98-103(1990)

32)塚本雅俊ほか.群馬県における淡色黒ボク土壌への有機物施用と肥料成分の溶脱.群馬農業研究.A総合.10,29-40(1993)

33)上沢正志.物質循環機能が形成する環境容量はいかほどだろう?.農業および園芸.68,333-334(1993)

34)山田 裕、鎌田春海.有機農業の技術的評価に関する研究:有機栽培が野菜の収量および土壌に及ぼす影響.神奈川農総研報.131,1-13(1989)

35)山田 裕.有機農業の技術的評価に関する研究:無機肥料及び有機肥料連用圃場における地力窒素の評価.神奈川農総研報.133,67-74(1991)

36)山崎浩道、保科次雄.カルシウム栄養条件下がトマト青枯病抵抗性品種の発病に及ぼす影響.土肥誌.64,325-328(1993)

37)矢野綱之ほか.連作年数を異にするタマネギの貯蔵性と環境条件の関係 第2報無機成分、糖含量と貯蔵性.佐賀大農彙.66,95-103(1989)

38)結城昭一.ダイコン・トマトの省農薬・劣化学肥料栽培.東北農業研究.別号5,47-58(1992)

39)脇本賢三、伊藤秀文.下水汚泥堆肥の施用が畑作物及び土壌に及ぼす影響.再生と利用.13,49-56(1990)