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Ⅱ 環境保全型農業技術

1.土壌の保全・養分管理

(3)肥料の利用率向上技術

3)環境保全的施肥技術

エ.果樹

 環境保全的な施肥技術は,環境への負荷の低減と並んで高品質果実を生産する観点からも注目されており,近年,果樹分野においても環境保全に関する研究が増加している17)。

(ア)果樹園地内における養分の動態

 果樹園から園外への肥料成分の流出を避けながらも,果樹の生産活動に必要な養分を過不足なく投入するには,園地内の肥料成分の動態を把握する必要がある。

窒素栄養の動態の把握には重窒素がトレーサーとして利用され,カンキツ(15,45,46)では樹体における窒素の時期的な変動や草生園における土壌と樹体における窒素の動態が明らかにされ,草生栽培下にあるリンゴ,モモ,ブドウ等の落葉果樹に関するこれまでの研究成果(25)から,樹体生育における土壌窒素の役割と窒素の園内循環における草の重要性が指摘されている。草生ブドウ園について,窒素の循環モデルが提唱されている(49)。主要な樹種について,果樹園における肥料成分の動態や年間の養分の吸収量,施肥反応,施肥量に関する研究が整理されている(23)。また,化成肥料と被覆肥料について,カンキツ栽培条件下における夏季の窒素とカリウムの土壌からの流出が調査され(35),被覆肥料の窒素の溶出は化成肥料に比べて少なく,化成肥料でも硫アンが硝アンに比較して溶出が少ない結果を得ている。カリウムの溶出はいずれの肥料でも低く,カリ施用量は樹体の吸収量相当でよいと結論している。

(イ)施肥の量及び時期の見直し

 近年,過剰施肥による果実品質の低下や生理障害の発生などの問題に加え,環境への負荷を低減する観点から,色々な果樹について各地で施肥量や施肥時期が見直されつつある(19)。果樹による養分吸収は季節によって大きく異なるので,年間の肥料の施用量は同じでも施用時期によって,その効果は違ってくる。カンキツの施肥法が検討された結果(29,30,31),窒素肥料を夏期に重点的に施用することによって年間施肥量を低減させながら,高品質果実を生産できることが明らかにされている。リンゴでは(5),秋の重点施肥によって,樹勢を低下させることなく果実品質を向上できることが明らかになっている。キウイフルーツに(1)窒素を多量施用すると貯蔵中の腐敗果の発生が増加するので,これを避け増肥しないで果実肥大を良好にするには果実肥大期の重点施肥が効果的であると報告されている。ウメ(55)では冬肥よりも夏肥が有効であり,土壌中の交換性カリウム含量は,既に県(福井県)の基準値を上回っているとの指摘がある。リンゴの長期施用量試験が実施され,褐色森林土壌では長期の無窒素処理でも果実品質は良好で、収量も低下しないことが明らかになり(4),窒素,リン酸,カリウムの施肥量の見直しが行われた(48)。わい性台リンゴ樹(50)やビワ(51)についても施肥基準の見直しが検討され,また窒素施用量の低減によるカキの品質向上が報告されている(6)。ニホンナシの胴枯病の発生が窒素の多量施用によって助長されることが明らかになっている(37)。

(ウ)果樹園土壌の理化学性及び重金属集積の実態

 近年,果樹園においてもボルドー液などの農薬散布による銅や亜鉛などの重金属の集(3,38)及びブドウ園(52)土壌における重金属の賦存量の実態調査やブドウ園(52)における重金属の過剰対策が報告されている。

 千葉県(2)と栃木県(16)では,農耕地土壌の理化学性調査の一環として果樹園土壌の実態調査が行われたが,栃木県ではきゅう肥の多用に起因すると思われる交換性カリウムや可給態リンの過剰が指摘され,千葉県では作土層と次層のち密化と交換性カリウムの増加による異常落葉が報告され,減肥の必要性が指摘されている。モモの新規開園の際の土壌の改善には,堆肥の施用が有効であることが解明され(21),果樹園の土つくりには有機物の施用が有効であるとの指摘がされている(26)。

(エ)有機質肥料の利用

 有機質肥料に代わって化学肥料の使用量が増加したことが,これまで認められなかった新たな微量要素欠乏症を発生させる要因であるとの指摘があるように(7),有機質肥料は,微量要素を含む総合肥料としての役割ももつと同時に,土壌の理化学性の改善や土壌病害の抑止などその効果は非常に多岐にわたっている(24)。そのため,有機質肥料は養分の園外への流出を抑え,地力を維持・増進して持続型の農業技術を確立するための有効な資材として見直しが図られている。カンキツ園では,オガクズ牛ふん堆肥の収量や品質に対する影響が検討されるとともに(28),有機物施用による土壌の通気性改善の効果が明らかにされている(10)。また,カンキツ園土壌の改良に対する有機質資材の活用法が解明されている(13)。リンゴでは,未利用の有機物資源である剪定枝を堆肥化して利用する試みがなされ(20),地力を増強し,化学肥料の投入量を減らせることが明らかになっている。また,土壌侵食や養分溶脱の防止,地力の増強,それに有機物資源としての草生栽培の活用法が明らかにされ,堆きゅう肥やカニ殻などの有機物投入による紋羽病の抑制効果が報告されている(43)。

 クリの立枯症についても有機物の投入による防止対策が試みられている(42)。ブドウでは,オガクズ牛ふん堆肥の施用による根量と根群の拡大が観察され(44),収量が増加し品質も良好であった(56)。ブドウ園でのバーク堆肥や化学肥料の移動の様子が重窒素を使って観察されている(18)。

 モモ園(39)やクリ園(14)における有機物の施用効果が検討され,品質や収量によい結果が認められている。しかし,ブルーベリー園にマルチ資材として未腐熟のナメコかすが使用されたところ,クロロシスの発生や樹勢の低下が認められている(54)。また,カンキツ(47)と落葉果樹(22)について,土つくりや高品質果実の生産に対する有機物資材の効用と併せて,活用に当たっての注意が明らかにされている。

(オ)土壌微生物の利用

 最近,果樹の根にもVA菌根菌が共生することが明らかになっており,果樹の生育促進に利用する試みがなされている。カンキツでは,VA菌根菌による生育の促進が明らかにされたが(8),菌根形成に及ぼす土壌管理法(9),土壌の種類(11),地表面管理法(12)の影響が報告され,カンキツ園におけるVA菌根菌の実態調査が行われている(32,40)。クリの根の菌根形成の生態が調査され,立枯症罹病樹では菌根の形成が少ないと報告されている(41)。リンゴ(27)とモモ(33,34)ではVA菌根菌の接種の影響が検討され,生育の促進やリンの吸収量の増加を認めている。カンキツ園土壌とビワの根に,白紋羽病菌に対して拮抗能を有する細菌が存在することが明らかにされている(53)。また,カンキツ園での土壌微生物相に対する除草剤連用の影響が検討され,除草剤の連用が,土壌微生物相に著しい影響を与え,土壌への有機物の還元量を著しく低下させることを報告している(36)。

                       (果樹試験場  福元將志)

文     献

1)赤松聡,船上和喜.キウイフルーツに対する施肥と乾燥処理に関する研究.愛媛果樹試研報.10,77-88(1991)

2)安西徹郎 ほか.千葉県におけるこの10年間の農耕地土壌の実態と変化.千葉農試研報.33,107-121(1992)

3)海老原武久 ほか.農用地における重金属の賦存量.群馬農研報.A総8,53-62(1991)

4)福島果樹試.“リンゴ樹の窒素施肥反応と土壌窒素依存性”.日本における土壌肥料分野の新技術.第14回国際土壌科学会議 編.1990,84-85

5)福元將志.“果樹の栄養生理と施肥”.最新果樹園芸技術ハンドブック.吉田義男ほか編.東京,朝倉書店,1991,108-112

6)岐阜農総研セ.“転換畑カキ園における果色向上のための施肥改善対策”.日本における土壌肥料分野の新技術.第14回国際土壌科学会議 編,1990,80-81

7)石原正義.わが国における果樹の微量要素欠乏(過剰)問題と取り組んで.肥料科学.14,19-42(1991)

8)石井孝昭,門屋一臣.VA菌根がカンキツ実生の生育並びに炭水化物含量に及ぼす影響.園学雑.58別1,30-31(1989)

9)石井孝昭 ほか.土壌管理法の相違がカンキツ樹の菌根形成に及ぼす影響.園学雑.58別1,32-33(1989)

10)石井孝昭 ほか.カンキツ園土壌中の酸素濃度の変化と有機物施用.園学雑.58別2,108-109(1989)

11)石井孝昭 ほか.カンキツ園土壌中のVA菌根菌とその胞子数に関与する土壌要因について.園学雑.61別2,166-167(1992)

12)石井孝昭 ほか.バヒアグラス草生がウンシュウミカン樹のVA菌根形成に及ぼす影響.園学雑.62別2,98-99(1993)

13)石井孝昭.カンキツ園の土壌改良における有機物の利用に関する研究.愛媛大教育紀要 第Ⅲ部 自然科学.14,101-211(1994)

14)石川農総試.゛造成クリ園における地力増強対策゛.日本における土壌肥料分野の新技術.第14回国際土壌科学会議 編.1990,18-19

15)Iwakiri T. et al. Uptake and translocation of nitrogen in satuma mandarin trees. JARQ. 25, 125-132(1991)

16)亀和田國彦 ほか.栃木県農耕地土壌の実態:第2報 畑地土壌の物理性及び化学性の現況.栃木農試研報.36,1-14(1989)

17)金森哲夫 ほか.第8部門:畑地,草地および園地土壌の肥沃度.土肥誌.64,558-578(1993)

18)加藤秀一 ほか.施肥窒素の垂直方向への移動及び全窒素の推移.平成4年度長野果樹試成績(栽培部).1991,166-168

19)岸本修.果樹の施肥量の推移:農業の継続に必要な技術の単純化.農業および園芸.66,1113-1120(1991)

20)小林和太郎.剪定枝の堆肥化で大玉で味のよいりんご生産.圃場と土壌.21(244,245),100-107(1989)

21)小池明.堆肥の施用が新規開園土壌の理化学性ならびにモモ樹の生育と果実品質に及ぼす影響.徳島果試研報.20,11-22(1992)

22)駒村研三.落葉果樹の品質をめぐる諸問題.圃場と土壌.21(244,245),67-74(1989)

23)駒村研三.肥料依存性の作物間差・品種間差(果樹):低投入農業に適合した作物特性とマルチ環境に関する研究会資料.平成3年度関東東海地域環境調和型農業生産における土壌管理技術に関する第1回研究会,1991,13-20

24)駒村研三.゛土壌,栄養生理および水分生理゛.最新果樹園芸技術ハンドブック.吉田義男 ほか編.東京,朝倉書店,1991,102-107

25)Komamura K. Trace of 15N applied to deciduous fruit trees. JARQ. 25, 141-147(1991)

26)駒村研三.果樹園の土壌診断と土つくり.圃場と土壌.22(292,293),54-61(1993)

27)今智之.VA菌根菌の接種とリン酸の施用がリンゴ実生とダイズの生育に及ぼす影響.園学雑.61別2,164-165(1992)

28)水田泰徳 ほか.カンキツ幼木期の堆肥施用が樹体の生育,果実収量及び品質に及ぼす影響.兵庫淡路農技セ報.4,7-16(1993)

29)中間和光.温帯露地柑橘の施肥法と周辺技術の改善[1]~[5].農業および園芸,66,43-46,289-292,409-412,509-514,609-614(1991)

30)中間和光.柑橘の根の発生と追肥の役割.農業および園芸.68,691-697(1993)

31)中間和光 編.ミカンは夏肥重点で:高品質安定多収の革新技術.東京,農文協,1994,180p.

32)中路正紹 ほか.果樹園における根圏微生物の有効利用:第1報 カンキツ園におけるVA菌根菌の検索と実態.九州農研.52,76(1990)

33)額田光彦 ほか.VA菌根菌の接種がモモ台木の実生幼苗の生育に及ぼす影響.園学雑.62別1,92-93(1993)

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35)岡田長久 ほか.施用した窒素とカリの土層からの溶出に及ぼす夏季降水量の影響について.静岡柑試研報.24,1-13(1992)

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37)折本善之,石塚由之.ニホンナシ‘幸水’‘豊水’の胴枯病および芽枯れに関する研究.茨城園試研報.14,1-16(1989)

38)猿田正暁 ほか.県内耕地における重金属濃度の経年変化.群馬農研報.A総7,23-30(1990)

39)繁田充保 ほか.モモ果実の品質に関する研究:第2報 栽培条件の相違が果実肥大及び品質(糖,酸)に及ぼす影響.岡山農試研報.9,69-74(1991)

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41)杉本明夫.北陸地方におけるクリの根の生長活動および菌根形成.福井農試研報.26,1-12(1989)

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44)田口辰雄,森田泉.砂丘造成園における有機物施用方法がブドウ樹の根群分布に及ぼす影響.東北農研.43,211-212(1990)

45)Takagi N., and Akamatsu S. Nitrogen and carbon dynamics in citrus trees in orchards. JARQ. 25, 133-140(1991)

46)高辻豊二 ほか.草生ミカン園における窒素動態の解析.九州農研.51,221(1989)

47)高辻豊二.柑橘類の果実品質と肥培管理.圃場と土壌.21(244,245),75-82(1989)

48)田中謙.リンゴ園施肥量の違いが生育,収量,果実品質,葉内含量,土壌成分に及ぼす影響について.長野果樹試研報.2,25-52(1989)

49)梅宮善章 ほか.草生栽培ブドウ圃場における無機態窒素の動態.園学雑.59別2,214-215(1990)

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51)後田経雄 ほか.窒素施肥量がビワの収量・品質に及ぼす影響.九州農研.52,75(1990)

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54)横田清,柴田広道.ブルーベリーの生育に及ぼす土壌管理および施肥の影響.岩手大農報.19,299-306(1990)

55)渡辺毅.ウメの収量,品質の向上に関する栄養生理学的研究.福井園試特報.1,1-113(1991)

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