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2.病害虫・雑草防除
(2)天敵等生物利用による病害虫防除技術
3)害虫防除技術
ウ.ダニ利用
害虫の防除にダニを利用する場面は、ハダニの防除にカブリダニを用いる場合に限られる。カブリダニの中でも世界的に有名で、海外では実用化されている種にチリカブリダニPhytoseiulus persimilis Athias-Henriotがある。我が国にも1966年に北海道大学に導入され、各地においてハダニの生物的防除のための基礎的、応用的研究が多数行われた(32)。それらの成果を基に一部の県で配布事業が行われたが、本格的な実用化には至らなかった。この原因は我が国の病害虫防除が化学的防除に強く依存してきたことと、天敵を供給する体制が不十分であったこと等があげられる。
近年、生産者、消費者の双方から環境保全型の農業への要望が強くなってきている。また、民間企業が、生物農薬の開発や販売に乗り出したことも害虫の生物的防除への関心を高くしている。中でもチリカブリダニはオランダのコパート社の製剤が日本の企業によって導入され、登録のための効果試験が行われ、イチゴでは既に「実用性あり」の判定を受け、現在、生物農薬として登録申請中であり、近い将来市販されると思われる。また、他の国内2社もチリカブリダニを農薬登録するための試験を継続中であり、いくつかのタイプの異なる製剤が出ることが考えられる。
このようにチリカブリダニは生物農薬として登場間近であるが、なおいくつかの問題が残されている、一つは他の病害虫の防除とチリカブリダニの利用をいかに組み合わせるかという点で現在そのマニュアル作りのための研究が行われている。また、チリカブリダニの特性を十分に理解して利用するための指導員へのレクチャーをいかに行うか等の問題が残されている。
さて、カブリダニの利用に関しては平成元年に出版された農林水産研究文献解題No.15「自然と調和した農業技術編」に筆者が記述した。その時点でかなりの研究蓄積があったため、その後の文献数は余り多くない。No.15と重複しないで記述しては、十分に理解してもらうことは不可能と考えるので、あえてNo.15とかなりの部分で重複して記述することをお断りしておく。
カブリダ二類のうち、日本国内で利用のために研究が行われてきた種類はチリカブリダニの他では、在来種であるケナガカブリダニAmblyseius womersleyi Schicha (以前はA.longispinosus (Evans))、ニセラーゴカブリダニ Amblyseius eharai Amitai et Swirski (以前はA.largoensis および A.dereoni)の3種が中心である。
天敵としての能力を評価するためには各種の基礎的データが必要であり、食性、捕食量、増殖能力、休眠性、分散性、薬剤感受性、放飼効果等が検討されてきた。以下にそれぞれの項目ごとに判明している点を述べることにする。
(ア)食性
チリカブリダニはハダニのみを捕食し(2)、ケナガカブリダニはバラ科等の花粉でも増殖できるがハダニヘの依存性は高い(15-17)。ニセラーゴカブリダニは更に広範囲の植物花粉でも増殖が可能である(45,56)。コウズケカブリダニ Amblyseius sojaensis Ehara はハダニよりも花粉等の他の餌に依存性が高い(41,42)。チリカブリダニの大量増殖は、植物を育ててハダニを増殖し、これを餌にしているが効率的方法が検討されている(3,9,35,43)。
(イ)捕食量
餌密度の変化にともなう捕食量の変化は機能の反応と呼ばれ、いくつかのパターンが知られているが、チリカブリダニとケナガカブリダニはドーム型との報告も一部あるが(28,29)、基本的には飽和型と考えられる(14,52,54)。
温度と捕食量の関係をチリカブリダニ(1,2,52)とケナガカブリダニ(14,36)で比較すると30℃以下では明らかにチリカブリダニの捕食量が多い。
(ウ)発育
発育に及ぼす温度の影響については、チリカブリダニ(7,21)、ケナガカブリダニ(15,21,36)、ニセラーゴカブリダニ(56)で検討され、発育零点と有効積算温量が明らかにされている。発育零点はハダニよりやや高めであるが、発育期問はハダニより短い。カブリダニの発育は湿度の影響も強く受け、関係湿度60%以下では、卵のふ化やその後の発育が阻害される(15,22,37,50)。
(エ)増殖能力
産卵数、性比、ならびに増殖能力に関するパラメータはチリカブリダニ(1,2,7,52)、ケナガカブリダニ(15,46)、ニセラーゴカブリダニ(46,56)で報告があり、これらを総合するとチリカブリダニの増殖能力が最も高く、次いでケナガカブリダニが優れている。
(オ)越冬
チリカブリダニは休眠性を持たないが、低温には比較的強く、施設内や暖地での越冬の可能性はあり(8)、70日程度の低温貯蔵条件が明らかにされている(10)。ケナガカブリダニ(13,15,55)とニセラーゴカブリダニ(24)は、低温短日で誘起される休眠性を有し、越冬は雌成虫で行われる。
(カ)分散
チリカブリダニの分散性については実験系内(53)と各種作物(11)で検討され、極めて高い分散性を有している。
(キ)薬剤感受性
農業生態系の中でカブリダニを利用する場合、ハダニ以外の病害虫を防除するため、農薬を使う必要が生じる。この場合に使用可能な薬剤を探索するため、チリカブリダニ(4,12,34,39,49,57)、ケナガカブリダニ(12,15,20,40,51)、ニセラーゴカブリダニ(20,23,25)、コウズケカブリダニ(20)、Typhlodromus pyri(47)で各種薬剤の影響が検討されている。一般的には殺菌剤と殺ダニ剤はカブリダニに影響の無いものが多く、殺虫剤の多くは悪影響を持っている。しかし、チリカブリダニ(34)とケナガカブリダニ(15,16,27)のある系統は一部の殺虫剤に抵抗性を有する。
(ク)放飼実験と実用化
チリカブリダニの放飼実験はインゲンマメ(11,48,50)、ナス(11,26)、キュウリ(31,38)、イチゴ(6,8,11,39,57)、カーネーションとバラ(5)、クローバー(30,33)、ダイズ(31)、ブドウ(11,18)、チャ(44)などで行われ、施設内において良好な結果が得られている。ケナガカブリダニはクローバー(33)、インゲンマメ(14)で放飼実験が行われ、チャにおいてはカンザワハダニの防除に有効に働いていることが明らかになっている(15-17)。ニセラーゴカブリダニはカンキツのミカンハダニに有効であるが(56)、Tetranychus属のハダニには効果がない(33)。
カブリダニ以外のダニに属するハダニの天敵として、ナガヒシダ二類があり、ケボソナガヒシダニ Agistemus terminalis (Quayle)の生態特性に関する報告がある(19)。
(野菜・茶業試験場 浜村徹三)
文 献
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