Ⅱ 環境保全型農業技術

2.病害虫・雑草防除

(2)天敵等生物利用による病害虫防除技術

4)線虫防除技術

 線虫の生物防除を広くとらえると,天敵利用とともに対抗植物の利用,さらには輪作や抵抗性品種の利用も含まれる(68)が,ここでは寄生性及び捕食性の天敵を利用した生物防除に限って扱う。植物寄生性線虫を対象とした生物防除の研究は,土壌中に生息するこれら微小な動物が作物の連作障害の原因となることが明らかになり,農業生産阻害要因としての線虫の重要性及び防除の必要性が認識されてまもなく,化学農薬の登場に先立って20世紀初頭から続けられてきた(3,65)。

 土壌中には線虫にかぎらず,原生動物,ミミズ,クマムシ,ダニ,昆虫等多種多様な動物がおり,これらの一部は線虫を捕食して生活している(19,45,58,64)。また,土壌中には,さまざまな細菌,糸状菌等菌類がいて,これらの一部は線虫に寄生する種類が知られる(3,7,10,20,33,44,45,58,59,65)。こうした捕食性天敵や寄生菌を利用し農業上有害な植物寄生性線虫の防除を目的として,多くの研究がなされてきた。特に,線虫捕食菌と呼ばれる線虫を捕捉するための特別の器官を持つ糸状菌については,分類,生理生態的特性の解明とともに,これを大量に培養して土壌に接種し,有害な線虫を防除する試みも含め,多くの研究の蓄積がある(3,7,20,33,39,44,45)。

 このような中で,1970年代なかばの「殺線虫剤危機(nematicide crisis)」と呼ばれる,それまで多く使われた殺線虫剤のいくつかが環境問題や毒性のために次々と姿を消していった時期を境に,線虫の生物防除技術の実用化に向けた研究が以前にもまして取り組まれるようになった(63)。1981年以降1994年半ばまでに,世界中で発表された線虫の生物防除に関する論文は約900篇に上り,これに関する本もいくつか出版された(19,26,55)。また,これら研究成果を踏まえ,植物寄生性線虫の生物防除に関して問題点の整理や実用技術としての可能性の検討が行われた結果,研究開発の方向が定まってきたのが,ここ15年ほどのことである(31,39)。

 植物寄生性線虫を対象とした生物防除資材として有望視されているのは,ネコブセンチュウの防除を目的としたPasteuria属出芽細菌並びにネコブセンチュウ及びシストセンチュウ防除を目的とした前者の卵嚢及び後者のシスト・雌成虫に寄生するPaecilomyces属及びVerticillium属糸状菌である(20,26,59)。これらの実用化に向けた研究開発が重点的に行われている。これらはいずれも作物の根に定着する内部寄生性あるいは半内部寄生性の線虫の増殖ステージ及び卵に寄生する天敵である。線虫捕食菌と呼ばれるさまざまな機能と形態の線虫捕食器官をもつ糸状菌は,研究の歴史は長く,現在でも多くの論文が発表されているものの,生理生態的特性から線虫防除資材としての実用化は難しいのではないかとする意見がある(31,39)。

(a) Pasteuria属出芽細菌:出芽細菌類Pasteuria属とされる細菌が線虫に寄生して死亡させることが知られている(59)。この細菌は,発見当初は原生動物の微胞子虫類とされ,後に細菌と判明したことからBacillus属とされたが(29),現在はPasteuria属に移されている(48,59)。本属細菌は,ネコブセンチュウ,シストセンチュウ等植物寄生性線虫及び細菌や糸状菌を食べる自活性線虫を含めて,200種以上の線虫から検出されている。この細菌は生物防除資材として多くの長所を持ち,実用化がもっとも有望視されており(26,59),世界各地で生物防除資材として研究開発が行われている。

 長所として次のような特徴があげられている(26,46,48,49,51,59)。①一部の例外はあるが,寄主範囲が狭く,ある分離株はそれが検出された線虫と同一属あるいはそれに加えてごく近縁の属の線虫にのみ寄生し,他の生物に直接の影響を及ぼさない。②殺線虫力は強いものの,増殖にあたっては本細菌の生活環は寄主の線虫と同調している。③高温,低温,乾燥等に対する耐性が強く,寄主が存在しない条件でも土壌中で長期に生存する能力を持つことから,圃場に定着する。④殺線虫剤,殺虫剤等に対しても強い耐性を示す。短所としては,①絶対寄生菌であることから人工培地を用いた大量培養が出来ない。②運動能力を持たないことが上げられる(28,48,51,59)。短所のうち,前者については,植物体上で成長させた線虫に本属細菌を寄生させて増殖し,線虫及び細菌を含めて植物体を粉砕して接種源とする技術が開発されている(26,50,59,67)。後者については,土壌に大量に施用することで対応している(22,49)。本属細菌の生活環,病原性等については詳細にまとめられた(59)。

 ネコブセンチュウ属に寄生する本属細菌はP. penetransと呼ばれる種類である。この細菌のネコブセンチュウに対する寄生性は分離株によって若干の違いがある(52,59)。また,ネコブセンチュウの産地によっても本属細菌の寄生性が異なる場合が知られている(52,66)。サツマイモネコブセンチュウを対象として,これに対する病原性が高い分離株を用いた場合,土壌1g当たり10^6個の細菌の耐久胞子を接種すると接種直後のトマト栽培において線虫被害が見られなくなるまで線虫密度が低下する。1×10^5及び3×10^5では2作目以降から効果があり,1×10^4及び3×10^4の接種では線虫による被害が見られなくなるのは3作目以降となる(22)。しかし,これも線虫密度が低い場合には防除効果が早く現れることから,本細菌の接種に先だって通常の使用量より少ないオキサミル等の殺線虫剤の施用し,線虫の運動性を高めることによって線虫と細菌の接触の機会をますとともに,線虫密度を低下させる技術が検討されている(5,26,30,59)。また,同様の目的及び増殖率の高いネコブセンチュウのリサージェンスを回避する目的から,本細菌とともにネコブセンチュウに寄生するPaecilomices属等の糸状菌を併用することによって,本細菌の効果を高める試みも行われている(6,51)。ポット試験によると,26℃の時は 31℃より幼虫に付着する細菌数は多いが,菌の増殖は遅くなる傾向であった(43)。

 シストセンチュウ類(Heterodera属及びGlobodera属)に寄生するPasteuria属細菌は,わが国で発見され(48,49,60),P. nishizawaeと命名された(61)。本細菌は,ダイズシストセンチュウが発生しているにもかかわらず常に線虫密度が低い状態で経過している圃場,いわゆる線虫抑止型土壌から検出された(46,48)。この細菌が存在するイネシストセンチュウの発生圃場における調査によると,陸稲の連作3年目までは線虫の幼虫及び蔵卵シストの土壌中の密度は急速に高まるが,4年目以降はいずれも顕著に低下した(49)。本細菌は,ダイズシストセンチュウ,ジャガイモシストセンチュウ等のシストセンチュウ類にも寄生する(60)。また,東関東地域のシストセンチュウが発生している一般農家圃場において,比較的高い割合で分布することが明らかとなっているほか,青森県でも検出された(49)。

 ネグサレセンチュウ(Pratylenchus),オオハリセンチュウ(Xiphinema)等多くの植物寄生性線虫においてもPasteuria属細菌の寄生が知られている(59)。ネグサレセンチュウ(Pratylenchus scribneri)を対象とした本細菌の胞子を含む土壌を接種して防除する試みが行われた(29)。

(b) その他の細菌:昆虫の病原細菌として知られるBacillus thurngensisは,線虫にも効果があり,サツマイモネコブセンチュウ,キタネグサレセンチュウ,ニセフクロセンチュウ等に対する密度抑制効果が確認されている(31,48,54,75,76)。また,B. subtilis,B. sphaericus,B. pumilis,Pseudomonas spp.等の細菌も殺線虫作用を持つことが知られ(9,16,31,48,57,59,62),一部は有効成分が解明された(28,59)。このようなことから,土壌中において線虫個体群の動態にさまざまな細菌が関わっているのではないか想像され,こうした研究によって線虫を対象とした新たな生物防除資材が発見される可能性が高いと考えられている(31,63)。また,放線菌の生産する抗生物質の中には,avermictineのように線虫に対する毒性がきわめて高いものがある(27)。このような物質の探索も行われている。

(c) 卵寄生菌:サツマイモネコブセンチュウ及びジャガイモシロシストセンチュウの卵にPaecilomyces属の糸状菌が寄生し,高い殺卵効果を持つことが1979年に報告された(21)。その後,ネコブセンチュウの卵嚢及びシストセンチュウのシストからPaecilomyces,Verticilllium,Fusarium属等の菌類が分離され,これらがネコブセンチュウ及びシストセンチュウの密度抑制に大きな役割を果たしていることが判明してきた。わが国においても,北海道,東北び関東地域においてネコブセンチュウあるいはシストセンチュウから同様の菌類が分離され,殺卵効果が調べられた(1,2,23,24,25,53,73)。

 このような菌類の一部は,植物寄生性線虫が発生しているにもかかわらず線虫による作物の被害がほとんど問題とならない,いわゆる抑止型土壌から分離されたものである(2,23,24,70)。また,培地上で培養した菌を土壌に接種することによって,線虫による作物の被害が見られなくなるまで低下させた事例も報告されている。上記のほとんどは,線虫に関してはひよりみ(日和見)感染の菌であり,土壌に定着して線虫の卵に寄生し,線虫密度を常に低く抑制しているわけではない(31,70)。また,それぞれの菌によって,あるいは同じ菌であっても分離株によって,線虫の卵に対する影響は大きく異なり,高い殺卵能力を持つものの方が少ないと報告されている(70)。

 このようなことから,殺卵能力の高い菌株を選別するとともに,土壌中において他の微生物との拮抗作用によって菌の効果が左右されると考えられており,土壌中における定着と卵寄生がおきる条件の解明が重要であるとされている(63,70)。また,卵寄生菌の研究は,材料として集めたり取り扱いの容易な,根に雌成虫が定着する内部寄生性線虫であるネコブセンチュウ及びシストセンチュウから分離されたものを対象として行われてきた。ネグサレセンチュウ等移動性の外部寄生性線虫の卵に寄生する菌も,当然,土壌中に存在すると予想されている(40)。これらの菌に関しても今後の研究が待たれている(70)。なお,ネコブセンチュウの対する効果の高いPaecilomyces lilacinusの分離株の中には,人の眼球及び皮膚に感染するものがあるとの報告がある(26,40)。

(d)線虫捕食菌:土壌中に生息する糸状菌の中には,菌糸で輪を作って線虫が輪に捉えられと菌糸を線虫の体内に侵入させたり,粘着性のある胞子や菌糸が線虫の体表に付くと発芽して線虫の体内に侵入して線虫殺す作用を持つものがある。このような菌類を線虫捕食菌あるいは線虫捕捉菌等と呼ぶ。このような作用を持つ菌は,1888年に線虫捕食作用が発見されて以来,分類,生理生態及び線虫の生物防除への利用に関する研究が続けられてきた。これらは単行本・総説としても研究成果がまとめられている(7,10,19,20,26,32,33,36,39,65,72)。また,分離法についての解説もある(32,38)。

 線虫捕食菌は,分類学的に接合菌綱,ツボカビ綱,卵菌綱,担子菌綱及び不完全糸状菌綱に属し,世界で150種以上が知られる。わが国においても,戦前からの研究を含め(8,15),畑地,果樹園,ハウス,林地等から46種の線虫捕食菌が報告された(27,35,36,37)。これらは,機能的に捕食器官の形態と捕捉機構によって外部寄生菌と内部寄生菌に分けられる。わが国で検出された外部寄生菌としては次のものがある(35)。捕捉器官が網状:Arthrobotrys10種,Monaclosporium4種。捕捉器官が分枝状:Arthrobotrys2種,Monaclosporium2種。捕捉器官が球形:Arthr-obotrys3種,Monaclosporium3種。捕捉器官が収縮環:Arthrobotrys3種,Monaclosporium3種。捕捉器官が非収縮環:Dactylella1種。捕捉器官が球形で非収縮環:Arthrobotrys1種。内部寄生菌としては次のものがある。Euryancale2種,Goninochaete2種,Haptoglossa1種,Harposporium4種,Meria1種,Meristacrum1種,Zygnemomyces1種,Nematoctonus1種,Verticillium1種。これらの菌のいくつかは,形態,検出法,地理的分布,土壌内分布,栽培環境との関係,線虫捕捉活性,温度・pH等培養条件,殺線虫活性,生物防除への適用等について調べられた(13,27,32,33,35,36,53,71)。

 生物防除への適用は,古くから試みられてきたが明確な効果が得られたものは少ない。千葉県におけるキタネコブセンチュウが発生しているラッカセイ圃場の調査によると,捕食菌検出頻度が高い場所では線虫の増殖率が低いという結果が得られた(34)。また,フランスでは,マッシュルーム栽培で問題となるキノコセンチュウ(Ditylenchus myceliophagus)等有害線虫防除を目的としたArthrobotrys robustaの一系統の製剤"Royal 300"及び小規模の野菜畑でのネコブセンチュウ防除を目的としたA. irregularisの一系統の製剤"Royal 350"が一般向けに製剤として商品化された(26)。後者を日本国内で試験した結果では,十分な防除効果は認められなかった(47)。他の多くの実験的な接種試験結果においては,殺菌土を用いた室内試験等ではある程度の線虫密度抑制効果が発揮されるものの,一般の圃場においては十分な効果が認められなかったとする報告がほとんどである(12,26,31,36,39,42,72)。

 この原因としてこれらの菌が持つ次のような特性(短所)に由来するものと考えられている。①いずれの菌も程度の差こそあれ腐生性も兼ねており,線虫への栄養依存度が必ずしも高くない,②線虫に対して非選択的であり,自活性線虫が多く混在する土壌環境のなかで植物寄生性線虫だけを選択的に捕捉するわけではない,③ネコブセンチュウやシストセンチュウでは卵塊や蔵卵シストが重要な線虫の増殖源であるが,それらへの攻撃性に欠けている,④土壌中で他の菌類との間の競合性に乏しい菌種が多く,ほとんどが静菌作用に過敏感的である(31,39,45)。線虫捕食菌の増殖を促すために有機物を施用する試みもあるが,これも拮抗作用を持つ他の土壌菌類は増えるものの捕食菌の作用はかえって低下したとする報告もある(26,31)。

 上に述べたような特性から,線虫捕食菌を用いた植物寄生性線虫の生物防除は難しいのではないかと考えられるようになってきた(39,70)。しかし,イギリスにおいてムギシストセンチュウがコムギの連作によって,当初は密度が上昇したものの,3年目以降は急激に密度が低下した圃場があった。この圃場の線虫と土壌を調べたところ,Nematophthora synophila及びCatenaria auxiliarisの2種の線虫捕食菌が発見された(26)。これらは,従来研究されてきた菌と比較して培養が難しい菌であった。しかし,このような一般的な栄養条件では育ちにくいが,線虫との関わりがより深い菌が線虫防除資材として有望であり,未発見の菌がまだ土壌中に多く存在する可能性があるとする意見が出されている(26,31)。

(e)その他の病原:ネコブセンチュウの幼虫の運動性を失わせるウイルス様病原体,異常死したイシュクセンチュウの体内から検出された細胞質多角体病の病原とされたウイルス様顆粒等線虫に感染するウイルス様のもの等の報告がある(11,31,44,45)。しかし,これらについては病原性の確認を含めてほとんど研究は手付かずのまま残されている。また,リケッチアと考えられる細胞内微生物がジャガイモシストセンチュウ,ダイズシストセンチュウ等から検出された(31)。これらは共生微生物の可能性が高いといわれており病原性は弱い(31,45)。原生動物の中にも線虫に感染しているものが発見されているが,リケッチアと同様に,病原微生物であるのか共生微生物であるのかを含めて明らかにされたものは少ない(56)。

(f)捕食性天敵:畑地,草地等農耕地や林地等の上部15cmの土壌層には,1㎡当たり数百万から数千万頭の線虫が生息しており,これら線虫を餌として生活している微小動物も土壌中に多数いる。原生動物であるアメーバー(2種)が,サツマイモネコブセンチュウ,イネシンガレセンチュウ及びナミラセンセンチュウを捕食することが報告された(14)。また,同じく原生動物のゾウリムシも線虫を捕食する(58)。ウズムシ(扁形動物門),ヒクマムシ(緩歩動物門),メミミズ等も線虫を捕食することが知られている(19,58)。節足動物では,ササラダニ,トゲダニ等のダニ類,トビムシ(Collembora)が線虫を捕食している(19,41,58,64)。この他,線虫の中にも線虫を餌とする捕食性線虫と呼ばれる種類線虫があり,生物防除への利用に関する研究も多い(19,58,64)。

 このような捕食性の天敵は,摂食は非選択的であり,捕食される線虫として植物寄生性線虫ばかりではなく自活性線虫も含まれている。また,肉食動物として生態系の食物連鎖の中で比較的上位に位置することから,基本的に餌の密度に依存しており,餌の量をしのぐほどの摂食や増殖は起こらないと考えられている。これらの捕食性天敵は,野外の土壌中で線虫密度の抑制にある程度の役割を果たしていることは確かであるが,農耕地の土壌中に高密度で生息する特定の植物寄生性線虫の生物防除に実用的に用いることは困難とされている(26)。しかし,一般に外部寄生性線虫の増殖率は,ネコブセンチュウやシストセンチュウ等内部寄生性線虫と比較して低いことから,天敵による生物防除の可能性は高いはずであるという意見もある(26)。

(h) 食菌性のニセネグサレセンチュウ(Aphelenchus avenae)や昆虫病原性のSteinernema属の線虫を大量に土壌に接種することによって,ネコブセンチュウの作物への侵入が妨げられてネコブセンチュウの作物への寄生が減少するという報告がある(4,17,18)。これは植物寄生性線虫の防除であり,同時にSteinernemaの接種によって土壌害虫(昆虫)が防除され,さらに食菌性線虫の接種によって土壌病害の抑制ともなるという,土壌中の有害生物の総合防除の可能性を探る試みである(18)。

 このような試みを含め,線虫の生物防除への取り組みには二つの方向がある。一つは従来の化学農薬に代わる生物農薬の開発を目指したものである。もう一つは,線虫に対して拮抗作用を持つ生物を土壌中に導入し,これを土壌に定着させて線虫抑止型土壌を作っていこうとするものである。前者は,線虫と線虫に対して拮抗作用を持つおもに微生物の一対一の関係を追及するものであり,いくつかの可能性が見えてきた。後者については,前者の延長であるとともに,さらに土壌の生態系に存在するさまざまな生物的要因及び非生物的要因とこれらの相互作用を解明し,輪作,有機物施用,耕起等の耕地管理を含めて,総合防除及び持続可能な農業生産を目指すものである。このためには,抑止型土壌のメカニズムの解明,原因生物の検出,線虫に対する効果の高い分離株の選抜,有効な施用方法の開発,定着条件の解明,線虫の密度や植物の生育だけではなく,天敵の量的な把握技術の開発等が必要とされ,失敗例を含めてより詳細な解析が求められている(63,69,70)。また,近年は,導入資材による副次的影響についての影響評価の必要性も言われてきている(26)。 (農業環境技術研究所 皆川 望)

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