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Ⅱ.環境保全型農業技術

2.病害虫・雑草防除

(3)植物・有機物利用等による病害虫防除技術

1)病害虫抵抗性品種の開発と利用

ウ.野菜

(イ)虫害

ア)半翅目

 ワタアブラムシに対する抵抗性メロンはインドから導入された種から見出され,これに由来する抵抗性系統は抗生作用及び耐性の両方を有しており,少数の優性遺伝子によって支配されていることが知られている。また,耐虫性系統ではワタアブラムシによるカボチャモザイクウイルス(WMV2)の伝搬効率が低く,圃場でもWMV2の発病率が低い(23)。抵抗性メロン‘PMAR No.5’でのワタアブラムシの行動は,感受性品種の場合と比較して,葉上で分布がばらつきやすく,葉上から離脱しやすく,連続吸汁行動時間が短い(25)。抵抗性メロンの葉の抽出液には,強い摂食・生育阻害物質は含まれていない(26)。抵抗性メロンではワタアブラムシが挿入した口針の周辺に速やかにカロースが形成され,これが抵抗性に関与していると推定された(21)。抵抗性メロンではアブラムシ媒介ウイルスによるモザイク症状の発生が少ない(34)。抵抗性メロンのワタアブラムシ抵抗性は,一因子の優性遺伝子に支配されており,‘PMAR No.5’と‘アールス系ハウスメロン’とを交配選抜し抵抗性系統を作出した(34,35)。ウリ科及びナス科植物の中には,ワタアブラムシに生育阻害を起こさせるものがあり,ワタアブラムシのバイオタイプによってこれらの植物への適合性に差が認められる(1,12,18,27)。また,各種の既知天然有機化合物の中にカテキン類のようにワタアブラムシに対して強い摂食・生育阻害活性を示すものがある(26)。ワタアブラムシの摂食阻害活性を知るため,マイクロタイタープレートを用い,アントロン硫酸法により糖濃度を測定する簡易検定方法を開発した(24,28)。ワタアブラムシ(ウリ系統)が生育阻害を起こす各種ウリ科及びナス科植物の葉上での本害虫の吸汁行動及び甘露排泄頻度を調査したところ,植物種によって吸汁阻害を起こすものと起こさないものとがあった(2)。

 モモアカアブラムシに対して Nicotiana benthamiana と N.tabacum の体細胞融合雑種は抗生的な抵抗性を示した(4)。

イ)総翅目

 東南アジアから導入したナス品種間のミナミキイロアザミウマに対する抵抗性については,1花当たりの虫数と被害度の間に有意な正の相関関係が認められ,また,開花時の子房の直径と被害との関係に高い負の相関関係が認められた(31)。ミナミキイロアザミウマのトマト栽培ハウス内への飛び込みはスイカやナスの場合と比べ大きな差はないことから,本害虫は,遠距離からの寄主探索にあたって植物起源の誘引物質や忌避物質を利用していない(7)。また,トマトとナスを入れたシャ-レ内での行動観察によっても,ミナミキイロアザミウマ雌成虫は,トマトの識別に揮発性の誘引あるいは忌避物質を用いていない(10)。ミナミキイロアザミウマは,非寄主であるトマト葉上では短期間に全ての個体が死亡した(32)。圃場から採集したトマト葉には,ミナミキイロアザミウマはほとんど産卵しておらず,密閉容器内でのトマト葉への産卵数はナス葉やキュウリ葉の20%程度で積極的に産卵抑制されていると考えられた(8)。トマト葉組織内に産みつけられたミナミキイロアザミウマの卵は普通に孵化をするが,孵化幼虫の生存率は低く,2齢へ脱皮する虫数は僅かであった(9)。ミナミキイロアザミウマに対して強い摂食阻害活性を有するα-トマチンがトマト葉から単離,同定された(11,33)。

ウ)鱗翅目

 加工用キャベツ5品種間でコナガ幼虫の寄生数に差が認められ,このうち差の大きかった2品種をそれぞれかためて植栽した場合には,コナガ成虫は両品種を識別して産卵選択を行い,‘秋徳’には‘新青2号’よりも多く産卵した(30)。東南アジアから導入したナス25品種を用いてナスノメイガの被害をみたところ,偏円形及び卵形の5品種では全く被害が認められなかった(31)。ハ-ブの一種 Andrographispaniculata の抽出液は,コナガに対して摂食阻害活性を有する(6)。ハスモンヨトウに対して Persea indica 及び Ocotea foetens の葉は摂食阻害活性を示し,1%抽出液では Apollonia barbusana 及び P.indica が幼虫の体重増加を抑制した(3)。

エ)鞘翅目

 オオニジュウヤホシテントウの成虫及び幼虫は12種の植物のうち,著しく摂食量が少なかったのは Solanum torvum であった。また,ナス,ハシリドコロ,ヒヨドリジョウゴ,ワルナスビ,S.villosum, S.torvum では産卵数が,ナス,ヒヨドリジョウゴ,S.torvum では未成熟期生存率が,栽培ジャガイモに比べて有意に低かった(29)。

オ)線虫

 メロンの近縁野生種である Cucumis metuliferus は、C.anguria と同様にメロン類のネコブセンチュウに抵抗性であるので,メロン及びキュウリの台木として利用できる(13)。ゴボウ24品種のネコブセンチュウに対する抵抗性の品種間差異を調査したところ,線虫密度の高低が根長に影響しなかった品種は山田早生,白肌中早生であり,根重に影響しなかった品種は山田早生他4品種であった(5)。線虫抵抗性トマト品種に寄生できる抵抗性打破系統のネコブセンチュウをサツマイモネコブセンチュウと同定した。また,非打破系統を高温(30℃)条件下でトマトを寄主として選抜したところ,寄生率の上昇を認めた(16)。トマト「強力米寿」は,Solanum toxicarium 及び S.torvum を台木とした場合にサツマイモネコブセンチュウに強度の抵抗性を示し,S.sisymbrifolium の場合には根に小さな肥厚を生じたが,幼虫は成熟せず,卵塊も観察されなかった(14)。青首系を中心とする12品種のダイコンのネグサレセンチュウによる被害をみたところ,品種「おしん」で少なかった(19)。

カ)耐虫性に関する総説

 野菜の耐虫性品種の利用上の問題点,IPMにおける耐虫性利用と化学的防除や生物的防除との関係,並びに各論としてメロンのワタアブラムシ抵抗性,トマトのコナジラミ抵抗性,キャベツのコナガ抵抗性について述べられている(22,23,24)。二次代謝物質関連遺伝子の挿入による耐虫性植物の作出についての考え方が述べられている(20)。遺伝子組換え技術による耐虫性植物の作出について述べられている(15,17)。

(野菜・茶業試験場 松井正春)

文 献

1)安藤幸夫ほか. ワタアブラムシの薬剤抵抗性に関する研究. 第2報 ナスとキュウリに寄生する個体群の生物特性. 応動昆 36, 61-63(1992)

2)Barrangan R.C.S.ほか. 吸汁行動および甘露排泄頻度によるウリ科およびナス科植物のワタアブラムシ抵抗性機構の解析. 関西病虫研報 35, 33-34(1993)

3)Gonzalez-Coloma,A.ほか. Antifeedant and insecticidal activity of endemic canarian lauraceae. Appl.Entomol.Zool. 29, 292-296(1994)

4)Hagimori,M.ほか. Production of somatic hybrids between Nicotiana benthamiana and N.tabacum and their resistance to aphids. Plant Science 91, 213-222(1993)

5)萩谷俊一,小川勝. ネコブセンチュウの生息密度とゴボウ被害の品種間差異.関東東山病虫研報 37, 243-244(1990)

6)Hermawan,W.ほか. Influence of crude extracts from a tropical plant Andrographis paniculata (Achanthaceae), on suppression of feeding by the diamondback moth, Plutella xylostella (Lepidoptera:Yponomeutidae) and oviposition by the azuki bean weevil Callosobruchus chinensis (Coleoptera: Bruchidae). Appl.Entomol.Zool. 28, 251-254(1993)

7)平野千里ほか. トマト栽培ハウス内へのミナミキイロアザミウマの飛び込み.四国植防 25, 53-55(1990)

8)平野千里ほか. ミナミキイロアザミウマのトマトへの産卵性. 四国植防 26, 81-83(1991)

9)平野千里ほか. ミナミキイロアザミウマ:トマト葉へ産下された卵の孵化と幼虫の発育. 四国植防 28, 79-81(1993)

10)Hirano,T.ほか. Short-distance walking responce of Thrips palmi Karny (Thysanoptera:,Thripidae) to tomato leaves. Appl.Entomol.Zool. 28, 233-234(1993)

11)平野千里ほか. トマト葉に存在するミナミキイロアザミウマの摂食阻害物質. 単離と同定. 応動昆 38, 109-120(1994)

12)細田昭男ほか. ワタアブラムシの薬剤抵抗性に関する研究. 第3報 ナスとキュウリに寄生する個体群の寄主選好性と有機リン剤感受性. 応動昆 37, 83-90(1993)

13)五十嵐勇. メロンの近縁野生種「メトリフェルス」の台木利用. 今月の農業 31(1), 86-89(1987)

14)松添直高ほか. ナス属植物を台木とした接ぎ木トマトの青枯病および根こぶ線虫病抵抗性. 園芸学雑誌 61, 865-872(1993)

15)本吉総男. 遺伝子組換えによる各種耐性作物の作出. 植物防疫 45, 437-441(1991)

16)奈良部孝,百田洋二. 抵抗性トマト品種に寄生するサツマイモネコブセンチュウ系統の出現とその解析. 関東東山病虫研報 39, 297-299(1992)

17)野田博明. バイオテクノロジ-の進展と害虫防除. 植物防疫 48, 315-318 (1994)

18) 西東力. ワタアブラムシ Aphis gossypii Glover の薬剤抵抗性. V.寄主選好性と有機リン剤抵抗性の関係. 応動昆 35, 145-152(1991)

19)佐藤真理子,赤坂安盛. ダイコンにおけるネグサレセンチュウ被害の品種間差異. 北日本病虫研報 41, 196-198(1990)

20)清水利昭. 二次代謝物質関連遺伝子挿入による耐虫性植物. 農業および園芸 66, 806-808(1991)

21)篠田徹郎. ワタアブラムシの加害によるメロン葉のカロース形成とそのアブラムシ抵抗性要因としての可能性. 応動昆 37, 145-152(1993)

22)篠田徹郎. 耐虫性品種利用による野菜害虫の防除(1). 農業および園芸 69, 175-178(1994a)

23)篠田徹郎. 耐虫性品種利用による野菜害虫の防除(2). 農業および園芸 69, 285-288(1994b)

24)篠田徹郎. ワタアブラムシの寄主選択阻害因子. 植物防疫 49 印刷中(1994c)

25)篠田徹郎,田中清. メロン品種のワタアブラムシ抵抗性. Ⅱ.抵抗性および感受性品種葉上でのワタアブラムシの分布および行動. 応動昆 33, 249-251 (1989)

26)篠田徹郎,田中清. メロン品種のワタアブラムシ抵抗性. 人工飼料による摂食・生育阻害物質の検索. 関西病虫研報 31, 74-75(1989b)

27)篠田徹郎ほか. ウリ科,ナス科野菜およびその近縁野生種のワタアブラムシの寄主としての適合性. 関西病虫研報 32, 55-56(1990)

28)篠田徹郎ほか. マイクロタイタープレートを用いたワタアブラムシ摂食阻害活性検定法. 関西病虫研報 33, 87-88(1991)

29)Shirai,Y. Host plant suitability to the potato-feeder lady beetle Epilachna vigintioctomaculata (Coleoptera: Coccinellidae) on some cultivated and wild Solanaceous plants. Bull.Natl.Res.Inst.Veg.Ornam.Planta & Tea. A5, 45-60(1992)

30)渡辺丈夫,長岡勝巳. キャベツの品種間におけるコナガ(Plutella xylostella L.)寄生数の差異. 四国植防 20, 91-95(1985)

31)安田慶次,桃木徳博. 東南アジアから導入したナスのナスノメイガおよびミナミキイロアザミウマに対する品種抵抗性の差異. 九病虫研会報 34, 139-140 (1988)

32)八隅慶一郎ほか. 数種植物葉上でのミナミキイロアザミウマの生存. 四国植防 26, 77-79(1991a)

33)八隅慶一郎ほか. ミナミキイロアザミウマの生存に及ぼすトマト葉成分の影響. 応動昆 35, 311-316(1991b)

34)吉田建実. メロンのワタアブラムシ抵抗性育種の現状と諸問題. 今月の農業 33(6), 98-103(1989)

35)Yoshida,T. and Y.Iwanaga. Resistance to cotton aphid (Aphis gossypii G.) in melon: Its mechanism and selection methods. JARQ 24, 280-286 (1991)