Ⅱ.環境保全型農業技術

2.病害虫・雑草防除

(3)植物・有機物利用等による病害虫防除技術

1)病害虫抵抗性品種の開発と利用

エ.花

(ア)病害

 花き類における病害抵抗性育種やその研究はカーネーション委ちょう病(28)、バラ黒星病(20)、わが国におけるカーネーション委ちょう細菌病(17)、キク白さび病(27)、バラ根頭がんしゅ病(19)、チューリップモザイク病(11)および球根腐敗病(9)などの事例を除くと極めて少ないが、主要病害に対する抵抗性に品種間差が認められているものが多く(29,31)、今後の抵抗性育種の可能性の大きいことを示唆している(1)。公的機関に対する病害抵抗性育種では、キク白さび病、ユリ葉枯病およびウイルス病、カーネーション委ちょう細菌病およびフザリウム病、リンドウでは褐色根腐病等の要望が強い(5)。

 カーネーションでは細菌病、糸状菌病のうち8病害で品種抵抗性の報告があるが(29)、耐病性育種の重要性が指摘されているものは萎ちょう病および萎ちょう細菌病である。萎ちょう病については、ヨーロッパを中心に抵抗性品種の育種が進み、わが国にも毎年抵抗性品種が導入され、実際面における防除に大きな成果を収めている(16,24,28,29)。しかし、これらはいずれも欧州における萎ちょう病菌レースに対する抵抗性であり、わが国においては本病菌のレース分布に関する知見に乏しく、抵抗性育種推進上の課題となっている(28)。一方、欧州と異なり、栽培期間が高温多湿となるわが国では、萎ちょう病よりもむしろ萎ちょう細菌病の発生被害が大きく安定生産の隆路となっている。したがって、1970代から無病苗の増殖を目的として、切片テスト法などによる病原菌の検出方法が確立され(13-15)、1980年代後半からは抵抗性育種を目的とした抵抗性の品種間差異、病原菌の接種方法、菌系(レース)などの試験研究が多くの公立試験研究機関で実施されている。栽培品種の抵抗性検定では、抵抗性を有する品種は認められたが(17,18)、実用的に導入可能な抵抗性遺伝子はなかった(17)。しかし、ダイアンサス属野性種の中には強い抵抗性を示すものがあり、栽培品種との交雑系統の抵抗性検定を行なった結果、萎ちょう細菌病抵抗性育種の可能性が示された(17)。レースの存在については確認できなかった(17)。

 キクでは白さび病による被害が最も大きく、抵抗性育種に多大の労力が払われている。抵抗性育種の第一歩は抵抗性検定法の確立であるが、検定条件としては、気温17℃、湿度100%、被検定葉(上位の1~3葉)を霧状の水滴で覆い、白さび病菌小生子を接種する方法が良かった(26)。この方法で栽培ギク約250品種を検定(幼苗検定)した結果、16%の品種で高度抵抗性が認められ、この中には実用形質の優れた品種があり、優秀な実用形質を備えた白さび病抵抗性育種の可能性が示唆された狐(26,27,30)。白さび病のほか、半身萎ちょう病(3,7)、黒斑病、褐斑病(6)に対しても抵抗性の差異が認められた。

 バラでは、Rosa chinensis、R.wichuraianaなどが一般的に耐病性の強い系譜としてしられており(21)、比較的多くの病害虫を対象として抵抗性育種が進められてきた。しかし、接ぎ木栽培のため、台木と接ぎ穂の両面の検討が必要なこと、検定期間が長引くことなどのため実際育種の進展に比べると、抵抗性育種に関する情報は少ない(29)。栽培バラでは黒星病、うどんこ病、さび病などで品種抵抗性の差異が認められている(4)。黒星病に対してはキャメロットなど5品種、うどんこ病にはサムライなど9品種が比較的抵抗性であった。フィデリオ、ピースなどは両病害に抵抗性が見られた。さび病にはPo1yantha,Tea roseが抵抗性であった(4)。台木の根頭がんしゅ病では病原菌の生理型と病原力の関係が明らかにされ、バラ菌(生理型1と生理型2)に対して、海外から導入した台木品種から抵抗性台木、ISU54364-1,ISU71-6,ISUD-1、ノイバラからS1,S2,K1,K2およびY系が選抜された(19)。また、毛根病に対してもノイバラから抵抗性台木が選抜された(19)。

 チューリップではチューリップモザイクウイルス(TBV)(11)、えそ病(10,11)、球根腐敗病(8,9)、葉腐病(12)、疫病(9)で品種抵抗性の差異が明かにされている。TBVに対しては、フォステリアーナ、スピーシーズ系統に抵抗性強の品種が存在し、ダーウィンハイブリッド(DH)系統の中にも抵抗性の品種があった(11)。これら抵抗性強の品種のハイブリッドとのF1系統から、薄化粧(チューリップ農林9号)、白雪姫(同10号)、黄小町(同13号)などモザイク病に強い抵抗性を持った品種が育成された(22,23)。えそ病に大してはシングルアーリー、グレイギー、ダブルアーリー、メンデル、スピーシーズ系統の品種で発病が少なかった(11)。球根腐敗病の抵抗性検定には土壌接種法、球根浸漬接種法など簡易検定法が確立され(8,9)、ヨコハマ、ベンバンザンテン、ハルクロなど実用形質の優れた低抗性の強い品種が選抜された(9)。葉腐病については品種間でり病程度が異なり、DH系は強く、ダーウィン系は弱かった(12)。疫病に対してはDH系、シングルレイト系の品種は強い抵抗性を持つものが多かった(9)。

 リンドウでは葉桔病、ウイルス病などで系統や個体による抵抗性育種の差が認められ耐病性選抜の可能性が示唆された(2)。

                   (中国農業試験場 山本孝稀)

   文  献

1)Cline,M.N. et al. Current and future research direction of ornamental pathology. P1ant Disease. 72, 926-934(1988)

2)藤原一道.公的機関における花き育種(6)リンドウの品種育成.農および園.68, 1016-1022(1993)

3)飯島勉、三上元一.キクの半身萎ちょう病.植物防疫.26、443-445(1972)

4)飯田格.バラのおもな病害とその防除.植物防疫.25, 204-207(1971)

5)池田広.公的機関における花き育種(1)-現状と今後の方向-.農および園.68, 506-512(1993)

6)森田儔.菊黒斑病、褐斑病の発生生態ならびに防除.静岡農試研報.7, 68-88(1962)

7)森田儔.キクの切花生産をめぐる諸問題(10)-キクの病気とその防除法(2)-.農および園.52, 589-592(1977)

8)向島博行ほか.チューリップ球根腐敗病の品種抵抗性の簡易検定技術に関する研究 第1報 球根への針接種及び浸漬接種.北陸病虫研報.30, 91-97

(1982)

9)向島博行ほか.チューリップの土壌伝染病-とくに病原菌の同定、発生生態ならびに防除に関する研究.富山農技セ研報.9, 1-110(1991)

10)名畑清信ほか.チューリップえそ病の発生の認められた品種.富山農試野菜花き試報.1, 33-35(1983)

11)名畑清信ほか.チューリップウイルス病の発生生態と防除に関する研究.富山農技セ研報.2, 1-132(1988)

12)中臣康範、金子英雄.チューリップの葉腐病の生態と防除.植物防疫.25, 191-194(1971)

13)西村十郎.切片テスト法によるカーネーションの無病苗判定.農および園.46, 915-920(1971)

14)西村十郎.カーネーションの生産技術をめぐる諸問題(7)-病害防除-.農および園.56, 324-329(1981)

15)西村十郎.カーネーションの生産技術をめぐる諸問題(8)-病害防除(2)-.農および園.56, 448-452(1981)

16)小野崎隆.公的機関における花き育種(7)カーネーションの萎ちょう細菌病の抵抗性育種(1).農および園.68, 1117-1120(1993)

17)小野崎隆.公的機関における花き育種(8)カーネーションの萎ちょう細菌病の抵抗性育種(2).農および園.68, 1213-1219(1993)

18)太田光輝.カーネーション委ちょう細菌病の品種抵抗性.農および園.55, 801-802(1980)

19)太田光輝.花き類の根頭がんしゅ病および毛根病に関する研究.静岡農試特別報.16, 1-63(1993)

20)Semeniur,P. Spotless gold, spotless yellow, spotless pink rose: b1ack-spot resistant breeding lines. Hortscience. 14, 764-765(1979)

21)鈴木省三.鑑賞バラの改良の系譜の基礎.育種学最近の進歩33集.日本育種学会編.東京、養賢堂、1991,95-97

22)高柳謙治ほか.野菜・花き遺伝資源が育種に有効に利用された事例(2).農および園.61, 1257-1262(1986)

23)浦島修.公的機関における花き育種(12)チューリップの品種育成(4).農および園.69, 504-508(1993)

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25)山口隆.花きの耐病性育種および検定法-その現状と問題点-.農および園.50, 791-794(1975)

26)山口隆.栽培ギクの白さび病防除と耐病性品種の育成.農および園.51, 435-434(1976)

27)山口隆.キクの白さび病抵抗性育種に関する研究.育雑.31, 121-132(1981)

28)山口隆.カーネーション萎ちょう病抵抗性育種の現状と展望.農および園.63, 1130-1138(1988)

29)山口隆.主要切り花花きの病害抵抗性育種の現状と問題点.育種学最近の進歩30集.日本育種学会編.東京、養賢堂、1988,145-155

30)山田俊一.菊白銹病の伝染並びに防除に関する実験.日植病報.20, 148-154(1965)

31)山本拳稀.花“1.抵抗性品種の育成と利用(現状と展望)”.病害防除の新戦略.駒田旦・稲葉忠興編.東京、全農教、1992, 73-78

32)吉池貞蔵.リンドウの育種.育種学最近の進歩33集.日本育種学会編.東京、養賢堂、1991, 66-76