U.環境保全型農業技術

2.病害虫・雑草防除

(3)植物・有機物利用等による病害虫防除技術

4)物理的方法

ア.熱利用

 熱利用による病害虫防除は種子、苗、枝条、土壌、り病残さ、各種資材等の消毒、貯蔵・輸送中の農産物(ポストハーベスト)の病害虫対策、熱処理による抵抗性誘導、その他加熱処理による発生変動を利用した防除法等多岐にわたっている.

(ア)種子消毒

 熱による種子消毒は種子の組織深部に侵入した病原の殺菌に応用される。種子の発芽を低下させず、病原を消毒するための温度と処理時間は病原と作物により異なるがそれぞれの最適条件となるよう厳密な設定を要する。熱処理の効果は持続しないので熱消毒後さらに薬剤処理を行い、播種後種子および子苗を土壌病原菌から保護する必要がある。乾熱消毒以外はウイルス病に対しては効果がない。種子が古くなるほど耐熱性が低下し、熱消毒した種子は貯蔵性が低下する(34)。しかし乾熱消毒した種子を脱気缶詰種子とし、10℃以下の低温下で貯蔵すると2.5年間発芽力を保持した(72)。

 温湯浸法:55℃前後の温湯に種子を所定時間浸漬する方法である。水浸により種皮が軟化したり、粘質化する種子では適用できない。水に代わる媒体として鉱物油、植物油、四塩化炭素、ポリエチレングリコール(PEG)の使用が試みられている。温湯浸法は効果は高いが温度、浸漬時間を厳密に設定しないと発芽障害を生じることや処理したのち急速に乾燥させる必要がある(1)。ムギ類種子に対しチウラム・ベノミル剤と風呂湯浸法の二重消毒が有効であった(52)。

 空気混合蒸気消毒:蒸気と空気の混合により所定の温度に設定し種子を加熱消毒する方法である。この方法は最初は収穫後の果実、野菜、球根などに寄生するダニ、昆虫などの駆除に用いられていた(8)が、種子消毒に応用されるようになった。効果が低いためか日本では適用例が見あたらない(34)。

 乾熱消毒:通風式恒温装置を用いて乾燥条件で比較的高温、長期間処理する方法である。発芽阻害防止のため予備乾燥により種子水分含量を低下させておく必要がある。菌類、細菌、ウイルス、線虫等ほぼすべての病原に対して有効である(34)。野菜を始めとして各種作物および植物検疫対策としての種子消毒試験が行われている。最近ではキャベツ黒腐病汚染種子に対して40℃・24時間の予備乾燥後、75℃・5-7日間の処理が有効(61)という結果が得られている。植物検疫上特に重要な種子伝染性病原菌のFusarium solani f.sp.cucurbitaeは75℃3日間または80℃2日間、Verticillium tricorpusは75℃6日間または80℃5日間、Colletotrichum capsiciは85℃5日間の処理で100%の殺菌効果が得られた(71)。レタス・トマト・カブ、黄ガラシ、キュウリ、スイカ、トウガラシ、カンコン(アサガオナ)、オクラは耐熱性が最も高く、三尺ササゲ、緑豆カイラン、キャベツは中程度、アスパラガス、スイートコーン、ダイズは低かった(72)。

(イ)枝条、苗、塊・茎・球根等の熱処理

 果樹、花木などの木本永年作物の苗木や栄養繁殖性の草本作物の生育あるいは休眠中の菌、茎・球・塊根、枝等の栄養体から汚染している病原体を熱処理により除去することを目的としている。

 高温室内処理:ウイルス無毒化は空気温度、湿度を高くした熱処理施設内で保毒苗木を熱処理する。果樹では大部分のウイルスは接ぎ木伝染で虫媒伝染性ウイルス(citrus tristeza virus)、花粉伝染性ウイルス(prunus necrotic rigspot virus,PRSV)は少ないためウイルスフリー(無毒)を維持することが可能である。虫媒伝染するウイルスでも弱毒ウイルスを用いる干渉効果を利用するためには一度ウイルスフリーにする必要がある。モモ実生菌にPRSVを保毒したモモを芽接ぎして1ヵ月伸長させたもの、およびモモ実生苗に無毒のモモを芽接ぎして伸長させprune dwarf virus(PDV)を接種したものを昼12時間40℃、夜12時間30℃変温して熱処理した結果、PRSVは早くて2週間、PDVは1週間でフリー化した苗が得られた。この先端をとってモモの実生苗に割接ぐことによりウイルスフリーのモモ苗が得られた(82)。熱処理および茎頂接ぎ木併用によるカンキツのウイルスフリー化(18,23)、その他各種の果樹ウイルス無毒化が行われ、大量増殖技術が確立されている(39,48,84)。イチゴ苗を38℃、18日間処理し茎頂培養によりウイルスフリー苗を育成した(80)。キクの苗を30cm鉢に3-4本定植し、恒温恒湿室に入れ38-40℃、70-80RHで40日処理する。処理後生長点を0.5-1.0pに切り取り挿し芽としてキクのウイルスフリー苗を育成した(27)。ヒヤシンス黄腐病罹病球根を恒温恒湿室に入れ43℃、70-80RHで2-5日処理した(5,78)。

 温湯浸漬処理:栄養繁殖性作物の苗、塊茎球根、枝条等を温湯浸処理し汚染している植物病原菌類、細菌、線虫等を除去する方法である。サトイモの乾腐病罹病種芋の60℃5分(87)、リンドウ褐色根腐病罹病菌の45℃・30分(70)、シャクヤク根黒斑病罹病菌の46-48℃・30分(19)処理が有効であった。

(ウ)貯蔵穀物、野菜、果実等の消毒

 貯蔵野菜、果実の熱による消毒は農薬に代わる腐敗防止対策として重要視されている。品質を低下させずに腐敗の原因となる微生物や害虫を除去するためには野菜、果実の種類、熟度、微生物や害虫の種類、生存状態また加熱の方法や条件等多くの要因が影響するが今後、解明を要する問題である。一般的に果実や野菜は50-60℃で5-10分間の処理には耐性で、組織表面に付着したり表層浅く侵入した病原菌の消毒が可能である。処理前や処理中の水分含量が熱の伝導や殺菌効果に大きく影響し、乾燥状態では熱の殺菌効果と伝導が低下する(9)。

 温湯浸法:メロン陥没病り病果実の58-59℃・2分、60℃・1-1.5秒の温湯浸法が有効であった(55)。コンニャクイモの主要病原菌である軟腐病菌、乾腐病菌に対して55℃・7-10分または57.5℃・5-7分の温湯浸漬処理で癒傷組織が形成され、キュアリングの効果が認められた(40)。ヨツモンマメゾウムシの成虫とヒラタコクヌストモドキの幼虫・蛹・成虫は55℃・120秒または60℃・60秒、ジャガイモガ蛹は60℃・90秒で死滅した(31)。越冬期のツツジ、カエデ苗木の47℃・40分間温湯浸漬がウイルス媒介線虫を含む外部寄生性線虫に有効であった(86)。

 蒸熱処理:最近熱帯産フルーツのマンゴー、アボガド、マンゴスチン、ハネデューメロン、パパイヤ等の輸入が増加しているが、それに伴いミカンコミバエ、ウリミバエ等の害虫侵入の危険性が大となった。蒸熱処理法の特徴は飽和水蒸気に近い空気を果実表面に吹き付けると水蒸気が凝固し、このときに発生する凝固潜熱で果実を加熱する。実験的には1.3uの処理庫と温度調節室からなる。実用的には差圧通風冷却方式により処理室1室あたり6tのピーマンを処理することができる(76)。前処理(湿度70-80%R.H。で温度を43℃まで6時間でシフト上昇)ののち、湿度95%R.H.以上の恒温処理室で46.0-46.5℃で果実中心温度が45℃になってから30分間処理するとパパイヤおよびツルレイシのウリミバエを殺虫することができた(66,67)。43.0-44.0℃・3時間の蒸熱処理でマンゴウのウリミバエが死滅し、果実に影響はみられなかった(65)。メロンのウリミバエでは46℃の蒸熱で加熱し、果実中心が45℃に達してから30分間の加熱により完全に殺虫し、果実の品質に影響はなかった(26)。ナスに寄生したウリミバエは約43.9℃。2時間の処理で死滅し、ナスに対する障害はなかった(22)。ピーマンの果実温度が43.0℃に達してから3時間の処理はミカンコミバエ、ウリミバエに有効で果実に障害を生じなかった(64)。

 低温処理:沖縄産セミノール(柑橘類)に寄生したミカンコミバエは果実中心部が0℃に達してから10日間の処理で完全に死滅し、果実の障害は認められなかった(63)。

 その他の加熱方法:極超短波(電子レンジ、600W,2450MHz)の照射がマメ類の発芽に及ぼす影響をみると、20%の発芽障害を生じるのはヤエナリで81℃、アズキ62℃、黒アズキ71℃であった。アズキ200gとともに照射し、50秒(72.4℃)でヨツモンマメゾウムシ各態、ヒラタコクヌストモドキ幼虫40秒(61.0℃)、蛹と成虫50秒(70.5℃)でほとんどが死滅した。箱入り朝鮮人参300gのヒラタコクヌストモドキ各態は180秒で死滅し、品質に影響はなかった(31)。飼料中の菌核病菌菌核を赤外線照射により250℃・20秒の処理で殺菌力可能であった(10)。

 キュアリング:サツマイモのキュアリングは32-35℃の温度と90-99%の湿度を収穫後のサツマイモに加え、速やかにコルク層を形成させ、傷口の治癒を図ることによって、貯蔵中の腐敗を防止する方法である(53)。サツマイモ腐敗の主要病原菌である黒斑病菌に対するキュアリング処理温度は35-36℃であった(40)。キュアリング貯蔵施設がある(33)が、蒸切加工用ボイラーの蒸気を利用した簡易キュアリング法(54)や貯蔵中のサツマイモ塊根付近の温度を17-24℃、多湿条件としたパイプハウスを用いた簡易キュアリング法(79)が普及している。コンニャクイモ腐敗の主要病原菌である軟腐病菌と乾腐病菌に対しては低温通風(3-5℃、R.H.60-70%、1m/sec)の処理に続いて33℃、R.H.90%、5-7日間処理が有効であった(40)。

(エ)土壌消毒

 太陽熱利用による土壌消毒:この土壌消毒法はハウスの栽培休閑期に太陽熱を利用し、熱消毒としては比較的低い温度(40-45℃)を長期間(14-20日)持続させて消毒する方法である。各種土壌病原菌や植物寄生性センチュウ類の防除に有効である(49)。施設(32)のみでなく露地圃場(24)においても技術体系が確立され広く利用されている。現在では各種作物、作型、地域への適応試験が広く実施されている。施設ではキク半身萎ちょう病・キタネグサレセンチュウ(25)、ナス青枯病(11,83)、メロンの萎ちょう症(17)、メロンのネコブセンチュウ、ナス青枯病残さ処理(62)、イチゴ根腐萎ちょう症(90)。露地圃場ではハクサイ土壌病害(2)、ハクサイ根こぶ病(3,21)、アブラナ科野菜根こぶ病(57,59)、野菜立枯病(58)、ホウレンソウ土壌病害(4)、ジャガイモそうか病(81)、ジャガイモ青枯病菌の耐熱性試験(29)がそれらの研究例である。また太陽熱による育苗土壌の消毒(88)、600oの潅水除塩と太陽熱処理の組み合わせで土壌改善効果が認められた(38)等の報告がある。土壌消毒ではないが、ハウス密閉、太陽熱利用により主として害虫防除が行われている。ハウスを密閉し1.5m高さの気温を50℃以上とするとミナミキイロアザミウマ、アブラムシ、オンシツコナジラミ成虫、チャノホコリダニは処理1日後で処理前比10%以下の密度に低下した。ハダニの密度低下はみられなかった(7)。ミナミキイロアザミウマの耐熱性は比較的低く、50℃以上の温度では短時間で死滅した(50)。

 蒸気消毒:蒸気をそのまま利用する場合と蒸気に空気を混合した空気混合蒸気消毒法とがある。

蒸気消毒法:100℃の水1gを蒸気にするには539calの潜熱を要し、逆に蒸気が100℃の水に凝結するときは同量の潜熱を放出し、その熱を利用して土壌を加熱消毒する。発生した100℃の飽和水蒸気は加熱器により加圧して100℃以上に温度を上げ土壌に連続的に供給すると熱せられた土壌の孔隙には高温の蒸気が満たされ、熱せられない土壌との境には熱前線を生じる。この熱前線は蒸気を送り続けると経時的に拡大され土壌全体が熱せられ消毒されることになる。消毒方式にはボディソンパイプ法(孔あきパイプ法)、キャンパスホース法(バルーン・スチーミング法)、埋設土管法、スチーミングプラウ法、スパイクパイプ法がある。地床栽培では蒸気消毒も効果が不十分の場合があり、トマトでは隔離床、メロンでは金網床栽培に移行し蒸気消毒が実施される例が多い。メロンの金網ベットは18mの長さ(土量1u)を80℃に加熱するために夏80分、冬120分要する(20,28,30,43)。従来の小型運搬車の荷台を使用して行う蒸気消毒法を網目鉄板による揚げ床方式とし、ホジソンパイプ方式からセイロ方式とし、消毒した土壌はダンプ駆動で所定の場所に降ろすように改良が行われた(51)。

 空気混合蒸気消毒法:蒸気と空気を混合し100℃以下の各種温度とし土壌を消毒する方法である。ブロワーで空気を送風したり、ベンチュリーで空気を吸い込んだりして温度を調節する。空気の混合量が多くなるほど温度が低下するが混合比と温度は直線関係にはならない。空気:蒸気(重量比)が1.6:1で82℃、6:1で60℃となっている。床土の消毒ではセイロ状の蒸し箱に土を入れ底部から混合蒸気を送り消毒する。温室の地床消毒は埋設土管法ではそのまま空気混合土壌消毒法が適用できる(8)。

 熱水注入土壌消毒法:熱水は上層移動を主体とする蒸気に対して土壌表面から下層に移行するため上表面から注入浸透させることにより省労力的に土壌消毒を行うことができる。病原菌は比較的耐熱性に乏しく、例えば土壌病原菌のフザリウム菌は55℃、2-3時間の温熱で死滅する。散水ホースによる熱水注入土壌消毒方法は昭和50年のオイルショックの時期には太陽熱集熱装置により得た熱水を有穴の散水管で土壌表面から注入しトマト萎ちょう病防除効果がみられた(35)。その後、蒸気土壌消毒機により得た90-95℃の熱水を耐熱性の散水ホースで畝表面より20p下層の土壌が55℃に達した時点まで注入し、注入停止以降は一夜は余熱を保持するためフィルムはそのまま被覆して置く。ホウレンソウ萎ちょう病(36,37)、ダイズ黒根腐病(44)や白絹病(45)、コムギ立枯病(46,47)、キタネグサレセンチュウ、サツマイモネコブセンチュウ、ダイズシストセンチュウに有効(42)であり、除草効果(35,44)もみられた。ダイズ白絹病菌菌核は52℃、15-30分の処理で死滅した(45)。トマト萎ちょう病、青枯病にたいしては95℃以上の高温熱水を30p深土が55℃以上になるまで処理する必要がある。ノズル方式による熱水注入法は幅1mのベットに耐熱塩ビ管1本を配置し1mごとに金属ノズル(1L/分、円形散水)を取付け、80-85℃の熱水を100o-150o散水する、ベットは2枚のアルミ蒸着フィルム間に空間を取って一重トンネル被覆とした。ボイラーは温湯・蒸気兼用機(10万Kca1/h)である。バラ園の土壌消毒に応用されている。散湯装置を畝上に低速で移動させながら熱水を注入する自走式熱湯散水方式は散水幅45mの熱湯散水部がフレキシブルチューブによって室内の熱水配管に連結され、約30L/分の熱水(80℃前後)がポンプによって送られ地表面に散水され、自動的に断熱保温用のアルミ蒸着フィルムを被覆する。散水部の移動速度は可変であるが、通常は毎時2-3mとする。バラ園、カーネーション圃場の土壌消毒に利用されている(15)。

 熱水循環による土壌消毒:既設の温水ボイラー、温湯循環ボイラーを利用し、地中に埋設した放熱用温水管(消毒用送湯体)に90℃の温湯を循環して、地温を約60℃に上層させて消毒する方法である。バラ園の土壌消毒に利用されている(14)。熱水循環方式による土壌加温時の土壌中の熱および含水比分布の経時的移動を知るためのモデル試験が行なわれた(56)。

 火炎焼土法:土壌を釜にいれるか鉄板上で火炎で熱する(16)。土壌殺菌用火炎放射器が試作された。これは必要に応じて深さを調節できる爪で土を撹拝し、膨軟になった土壌間隙に1200℃の火炎を吹き付け加熱しつつ覆土する方法である。オオムギ縞萎縮病の感染はムギの極初期の生育段階のみで起こるため播種した部位の狭い範囲の40℃加熱が有効であった(41)。火炎土壌消毒器(ヘキサペット)も利用されている。

 暖房機熱風利用法:直径10pのトタン円筒を幅1.5mベットの地表下15cmの深さに30p間隔に4本埋設し、熱風暖房機の送風口に分配器を用いて接続して熱風(150℃)を一方から土壌温度が60℃に達するまで送り、他端から排出される熱風(90℃)をハウス内に循環させる。地表面は被覆し、ハウスは密閉し12時間以上放置する(89)。熱風土壌消毒器の試作研究も実施された(12)。

(オ)発酵熱による被害残さ処理

 り病残さを堆積しプラスチックフィルムで被覆し、夏期1ヵ月、冬季5ヵ月間の嫌気性発酵処理により、ほぼ完全に無菌化することができる。ダイコン(萎黄病、バーティシリウム黒点病)、ハクサイ(黄化病、根こぶ病)、キャベツ(萎黄病、根こぶ病)で実証され、他病害にも広く適用が可能と推定されている。嫌気的発酵では10-30℃の範囲内でダイコン萎黄病菌の不活化がみられたが、本病菌の不活化速度はこの範囲内で温度が高いほど速やかであった(13)。ショウガ茎葉残さを用いた堆肥の発酵は60-70℃の最高温度を示し、44-46℃以上の温度が数日継続し、根茎腐敗病(Pythium zingiberum)対策に有効と推定された(69)。

(カ)資器材消毒

 トマト根腐萎ちょう病汚染ロックウール(77)、鉢の消毒にはセイロ型蒸気法及び熱水浸漬により消毒されている。養液栽培苗支持盤の消毒はミツバ栽培用は発泡スチロール製のため耐熱性が低く60-70℃とした蒸気室または温湯浸漬処理により消毒可能である。ロックウール栽培でのベッドからの排出液を毎時40Lの処理能力を有する装置を試作し、トマト青枯病菌は60℃・10分および70℃・5分間、トマト根腐萎ちょう病は70℃・10分間の処理が有効で、養液組成への影響は無視できる程度であった(75)。ミツバ根腐病菌は65℃・5分間の熱水浸漬で100%死滅し、水耕装置(NFT)に組み込んだ加熱殺菌装置によりこの条件で加熱すると高い防除効果が得られた(73)。

(キ)その他加熱処理による病害虫防除

 加熱殺菌した青枯病菌の菌体をタバコやトマトの苗に前接種すると青枯病の発病が軽減した(74)。エンバク冠さび病菌を接種した子苗を接種2-3日後に35℃、8時間処理すると夏胞子堆の形成が顕著に阻害された。同処理は宿主に作用して抵抗性を誘導しリポキシゲナーゼアイソザイムが関与していることが推定された(85)。トマト苗の48-49℃・30秒処理がトマト萎ちょう病に対し(6)、キュウリ苗の50℃・40-50秒の処理が黒星病(68)に対して抵抗性を誘導することが示された。直接防除に関らないが、TMVを接種したインゲンマメの葉を50℃・45-60秒浸漬処理すると通常は病斑形成を示さない品種の葉にも病斑が形成され、TMVの生物学的定量に応用できる(60)。

                       (農業研究センター 國安克人)

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