Ⅱ.環境保全型農業技術

2.病害虫・雑草防除

(3)植物・有機物利用等による病害虫防除技術

4)物理的方法

ウ.雨よけ栽培

 雨よけ栽培は、従来から露地栽培されていた普通・早熟、あるいは春まき・夏まき・秋まきの基本作型を対象に、ビニルハウスの上部のみを被覆して生育期間の大部分を雨よけの状態で栽培し、気象障害を回避してより生産性を高めようとする作型である(6)。雨よけ栽培は、降雨による作物体の直接のぬれをなくし、潅水装置により水分を制御することで、収穫物の降雨による障害(裂果・乱形果など)や病害による被害の防止などにより、品質向上と安定生産が期待できることから、昭和50年代に入って全国各地で栽培されるようになった(1,2,44)。

 病害防除の観点から、雨よけ栽培は特に雨滴伝染性の病害の発生を抑制し、薬剤の散布回数を低減できることが明らかにされている(44)。すなわち、病害の中には、病原菌の胞子や病原細菌が雨滴の跳ね上がりや雨滴に混じって、罹病作物から健全作物へ伝搬するものが多数あり、これらの病原菌や病原細菌は作物体へ侵入する時にも多湿条件や水滴を必要とする(3,44)。このような病原菌や病原細菌によって起こる病害に効果が高い。

 例えば、野菜病害に対して、トマトでは、細菌によって起こる斑点細菌病(17,18)に効果が高く、薬剤の散布回数は露地栽培に比べて半分以下になり、薬剤経費を少なくすることができる(18)。また、かいよう病(1,21,35)、軟腐病(2)、Phytophthora属菌による疫病(1)、Alternaria属菌による輪紋病(2)、ホウレンソウでは、Heterosporium属菌による斑点病(19,20)、Peronospora属菌によるべと病(2,44)、キュウリでは、細菌による斑点細菌病舳(48,49)、Pseudoperonospora属菌によるべと病(2,6)、メロンでは、Pseudoperonospora属菌によるべと病(2)などに対する防除効果が高い。イチゴでは、近年、各地で被害が大きいGlomerella属菌(Colletotrichum属菌)による炭そ病に対して、親株床と子苗床の両期間を雨よけすると効果が高い(4,9-12,30,31,32,46)、さらに雨よけ栽培とポット育苗中の底面給水の併用は、炭そ病防除に有効な育苗方法であるとの研究成果が得られている(13,14,33)が、実用化するまでには至っていない(13,14)。また、Mycosphaerella属菌によるじゃのめ病(25)にも高い効果がみられる。その他、Phomopsis属菌によるアスパラガスの茎枯病(22,23,39)、Colletotrichum属菌によるパセリー炭そ病(47)やコマツナ炭そ病(7)、細菌によるブロッコリー軟腐病(38)の発生を抑制する効果が高い。

 果樹病害に対して、ブドウではDiaporthe属菌による枝膨病(16,45)、Elsinoe属菌による黒とう病(15,16,45)、Plasmopara属菌によるべと病(16)に効果が高い。雨よけ栽培によってブドウの重要病害を対象とした薬剤防除が軽減できることから、露地の慣行散布に比べて、かなり散布回数の低減が可能になる(16)。キウイでは細菌による花腐細菌病(28,36,37)、かいよう病(50,51)の発生を抑制する効果が高い。

 雨よけ栽培は、露地栽培に比べて、前述のような病害・生理障害の発生を軽減する効果がある。しかし、被覆のねらいからみて、栽培的に雨よけ栽培にはほとんどの作物が適しているが、施設を導入して経営的にプラスになる作物は限定される(2)。雨よけ施設の普及が潅水施設のある地域に限定されること(23)、栽培条件・栽培管理を誤ると、露地栽培では発生しなかった空洞果など、予期しなかった病害・生理障害や機械的障害が発生する(2,6)。また経済効果を上げるため、同一作物を一年問に何回も連作したり、施設が固定化してきたため、新たに塩類集積・土壌水分調節や施肥量調節の不手際などによる生理障害や土壌病害が増加したなどの問題が出てきた(2,6,44)。

 雨よけ栽培で問題になっている土壌病害には、トマトでは、Fusarium属菌による萎ちょう病(29,40,43)、根腐萎ちょう病(43)、Verticillium属菌による半身萎ちょう病(1,40)、細菌による青枯病(2,40,43,52)があり、ピーマンではPhytophthora属菌による疫病(1,2)が排水不良の圃場で発生しやすい。ホウレンソウでは、Rhizoctonia属菌による株腐病(2,41,42)、Pythium属菌による立枯病(1,2,24,41,42)、Fusarium属菌による萎ちょう病(1,2,24,41,42)、Aphanomyces属菌による根腐病(41)などがある。これらの土壌病害や比較的乾燥条件で発生しやすい、うどんこ病(2,30)やハダニ類(2,8)などの防除対策が今後に残された課題であり(2)、栽培管理上の技術と相まって、適地適作輪作体系の確立、抵抗性台木・品種の利用などにより、施設の高度利用を図っていく必要がある。

                     (野菜・茶業試験場 我孫子和雄)

   文  献

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