Ⅱ.環境保全型農業技術

2.病害虫・雑草防除

(3)植物・有機物利用等による病害虫防除技術

5)間作・混作

 わが国では,2種類以上の作物を同一圃場に同時あるいはある期間重複して栽培し,その作物に主副の区別がない場合を混作(mixed cropping),主副の区別があって,主作物の畝間や株間などに副作物を栽培することを間作(intercropping)と定義されている(9,25)。しかし,同一圃場に1種類だけの作物を栽培する単作(monoculture )に対して,特に主副作物を区別せずに2種類以上の作物を時間的に重複して栽培する場合を混作(intercropping,mixed cropping)または複作(polyculture)と呼び(3,26,35),間作は混作の一形態とする考えもある(36)。この中には,2種類以上の作物が畝や条の区別なく栽培されるmixed intercropping(mixed planting,混播mixed sowing) ,畝や条に1種かそれ以上の作物が栽培されるrow intercropping(interplanting),帯状に2種以上の作物が栽培される帯状栽培strip intercropping,畝や株の下に土壌を被覆する被覆作物などを栽培するcovercroppingまたはundersowing,栽培期間の一部が重複して栽培されるつなぎ作relay intercroppingなどが区別されている(3,35)。文献中に用いられている“間作”や“混作”は用語として統一的に用いられていないので,ここでは両方を含めた“混作”を用いる。また土壌線虫や病害を抑制するために間作・混作される対抗植物は取り扱わない。

 現在わが国では混作はあまり一般的な栽培方法ではなが,熱帯地方では多くの作物が混作により栽培されており,わが国を含めた先進国でも近代的品種や機械化が導入される前は混作は普通に行われていた(3,35)。この技術は近年環境保全型または持続可能な農業が追求されるようになり再び注目されるようになってきている(2,36)。

 混作には,病害虫の発生を抑える効果以外に,1)空間的時間的に光をより効率的に利用できる,2)作物の生長や繁殖の生理的プロセスに相互または一方に有利な作用が働く,3)同種内の競争や自己中毒効果の緩和,4)水や養分の有効利用,5)雑草繁茂の抑制や土壌流亡を防ぐ,6)作物の補償的な生育を促す,7)作物の損失に対する危険分散の効果などの利点があるとされる(1,26)。害虫の防除効果については,わが国でも古くからキクのキクスイカミキリによる被害を防ぐため花壇にヨモギやニラを混作することが知られている(養寿軒雲峰『花壇菊花大全』1717年)(18)が,その害虫防除の原理については十分研究されてこなかった(16,33)。しかし,近年混作の害虫防除に対する理論的研究が圃場または農耕地の植生の多様性を増加させる方法の一つとして活発に行われるようになった(3,4,5,26,28,29,30,31,34)。

 一般に多様な農業生態系より単純な農業生態系で害虫が大発生するといわれる(6,14,16)。加藤(1953)(16)はダイズを単作した場合とトウモロコシと混作した場合とでダイズの害虫相を比較したところ,単作区では少数の優占種の密度が高くなり,単作栽培は昆虫を害虫化へ導くと考えた。しかし,単純な系に対して多様な系で常に生物的安定性が得られるとはいえないので(19),混作での害虫密度や被害の減少のメカニズムを明らかにする必要がある。

 資源集中効果(29):寄主植物が集中的に分布していると単食性や狭食性害虫がより強く誘引され,そこに長く留まり繁殖し密度が高まる。混作は餌資源の集中性を低め害虫密度を低くすると考えられる(3,4,26,28,30)。ソラマメゾウムシによるソラマメの被害は,ソラマメを畦畔に点播したときに最も少なく,麦畑に混作したときがこれにつぎ,全面に単作したときが最も大きい(11)。ウリハムシモドキは牧草の中ではラジノクローバーをとくに好むが,イネ科のオーチャードグラスと混播すると産卵が減少する(20,23)。しかし,牧草を刈り取ると混播の効果はなくなった(24)。資源集中効果は主として昆虫の行動にもとづいているが,以下の効果と関連している。

 障壁効果:寄主植物以外の植物により物理的に定着が妨げられる。ダイコンを陸稲に混作するとハイマダラノメイガの産卵が減り,被害が軽減されるが,陸稲はガの産卵のための侵入に対して障壁作用を持つ(10)。タバコと麦を混作すると麦へのアブラムシの飛来が少なくなるのも同じ効果と見られている(15)。

 環境の改変効果:混作により圃場の微細環境が変化する。ダイズネモグリバエの成虫の活動は温度,照度および風によって著しく変化する。ダイズの単作区に比較して麦との混作区では成虫の活動がほとんど認められず,卵,幼虫,さなぎの密度が少なかった(32)。前述のダイコンと陸稲の混作でのハイマダラノメイガの産卵抑制も畝間の微気象が効いている可能性がある(33)。また混作は作物の庇陰効果(25)などにより作物の質的変化を伴い,これが害虫の誘引,増殖に影響する(4)。

 視覚的効果:寄主植物の背景や密度が害虫の誘引定着に影響を与える(4,26)。ダイコンを陸稲やミツバと混作するとダイコンモザイク病の発生が減るが,有翅虫の幼苗への飛来が妨げられたと考えられている(17)。アブラムシは裸地の孤立した植物にに誘引されやすい(26)。

 誘引・忌避または撹乱効果:ダイコンとキャベツを混作したところ,全ての害虫の発生量がキャベツに多くダイコンで少なかった。ダイコンのモンシロチョウの発生量は混作区に比べて単作区で多くなったが,キャベツの誘引効果であったかどうかは明かでなかった(13)。キクスイカミキリの好むヨモギをキクと混植するのも誘引効果を利用したものである(18)。これらの植物はトラップ植物またはデコイ植物と呼ばれる。またキクとニラの混作は忌避効果または定位を撹乱する効果を利用したものと考えられ(18),麦に対するタバコの混作も同様の効果を持つと見られる(26)。非寄主作物との混作では害虫が寄主の作物を探索する効率が下がる(ハエトリリボン効果)(4)。

 天敵の効果(29,30,31,34):多様性の高い農業システムでは,天敵は代替餌や蜜源また好ましい微細環境を利用できるため個体数が増加し,害虫の個体数を減少させる。野菜栽培圃場の一隅に栽培されている採種用の開花したニンジンの花には多数の寄生蜂が訪花しており,水田や畑の有力な寄生蜂の蜜源となっていることが示唆されている(8)。クローバーやレンゲで被覆した不耕起自然農法の水田と耕起により被覆のない慣行農法の水田を比較したところ,前者ではウンカは低密度に維持されたが,後者では坪枯が起こるほど密度が高くなった。また前者では広食性天敵相が豊富なのに対して後者では天敵は貧弱であった(7)。ラジノクローバーとオーチャードグラスの混播区ではそれぞれの単播区に比べてクモ類の個体数が有意に多かった。オーチャードグラスを加害するアワヨトウ幼虫の生存率は単播区に比べて混播区で低く,クモの生息密度とアワヨトウの生存率の間に負の相関が見られた(21)。混播区でクモの密度が多かったのはクモの餌としての昆虫の種類が多いことと生息環境が立体的であることが考えられる(22)。果樹園の防風樹には豊富な天敵相が維持されており,草生法もふくめて果樹園への天敵の供給源としての利用が考えられている(12)。しかし,果樹園での被覆植物や周囲の植生に生息する天敵や害虫の果樹園への影響評価は必ずしも一致しておらず,今後の研究が必要である(27)。

 これらの効果は個々には化学的防除のように顕著でないものが多く,混作ではこれらの効果が複合的に作用して害虫個体群の密度に影響を与えていると考えられる。混作の方法によってはかえって害虫や被害が増加するケースもあり,混作による害虫制御には解明すべき問題が多くある(3,4,5,28)。混作は他の利点(欠点)も含めて,単作との比較においてその利益を評価すべきであり(3,5,35),また環境保全型農業で重視される長期的な利益の評価が必要である(28)。

  (農業環境技術研究所 井村 治)

 

文   献

1)Aiyer, A. K. Y. N. Mixed cropping in India. Indian J. Agr. Sci.19, 439-543(1949)

2)Altieri, M. A. ed. Sustainable agriculture. Agri. Ecosystems Environ. 39 special issue, 1992, 122p.

3)Andow, D. A. "Control of arthropods using crop diversity". CRC handbook of pest management in agriculture Vol. 1 2nd ed. Pimentel, D. ed. Boca Raton, CRC Press, 1990, 257-284

4)Andow, D. A. Vegetational diversity and arthropod population response. Annu. Rev. Entomol. 36, 561-586(1991)

5)Andow, D. A. Yield loss to arthropods in vegetationally diverse agro-ecosystems. Environ. Entomol. 20, 1228-1235(1991)

6)エルトン,C.S. 侵略の生態学.川那部浩哉ほか訳.東京,思索社,1971, 233p.

7)日鷹一雅,中筋房夫.自然・有機農法と害虫.東京,冬樹社,1990, 292p.

8)広瀬義躬.そ菜栽培地帯のニンジンの花畑に集まる寄生蜂類.九州大学農学部学芸雑誌. 22, 217-223(1966)

9)本多藤雄.“作付様式”.野菜園芸大事典.清水 茂監修.東京,養賢堂,1977, 107-115

10)井伊正弘ほか.大根の陸稲間作と大根心食虫の発生被害に就いて.応用昆虫.5, 99-100 (1948)

11)石倉秀次.“第3部 虫害”.作物病害虫事典.河田 党編.東京,養賢堂,1975, 825-932

12)井上晃一ほか.果樹用防風樹における天敵相.応動昆.35, 49-56(1991)

13)井上 平,河本賢二.混作下のキャベツとダイコンにおける虫害.九病虫研会報.36, 135-138(1990)

14)巌 俊一,桐谷圭治.“2.害虫の総合防除とは”.総合防除.深谷昌次,桐谷圭治編.東京,講談社サイエンティフィク,1973, 29-38

15)釜野靜也.“7 害虫の防除”.植物防疫講座 第2版 害虫・有害動物編.東京.日本植物防疫協会,1990, 103-115

16)加藤陸奥雄.作物害虫学概論.東京,養賢堂,1953, 306p.

17)北島 博.“IV 病気の防除”.作物病害虫事典.河田 党編.東京,養賢堂,1975, 112-130

18)小西正泰.虫の博物史.東京.朝日新聞社,1993, 300p.

19)小林四郎.群集レベルの安定要因はあるか.個体群生態学会会報.42, 35-47(1986)

20)小林 尚ほか.山地傾斜地における害虫の発生生態について.東北農試研究速報.16, 29-38(1973)

21)内藤 篤ほか.牧草害虫の耕種的防除法に関する研究 II.害虫の発生に及ぼす単播,混播の影響.草地試研報.11, 120-130(1977)

22)内藤 篤. 害虫の耕種的防除法を考える.農業および園芸.53, 11-16(1978)

23)奥 俊夫ほか.草地におけるウリハムシモドキの密度変動 I.草生状態と発生密度の関係.北日本病虫研報.22, 11-17(1971)

24)奥 俊夫ほか.草地におけるウリハムシモドキの密度変動 II.牧草の刈り取り時期と発生密度の関係.北日本病虫研報.22, 18-23(1971)

25)大久保隆弘.“農法と作付体系”.農学大事典.第2次改訂版 野口弥吉ほか監修.東京,養賢堂,1987, 1419-1431

26)Perrin, R. M. Pest management in multiple cropping systems. Agro-Ecosystems. 3, 93-118(1977).

27)Prokopy, R. J. and Coli, W. M. ed. Influence of understory cover and surrounding habitat on interactions between beneficial arthropods and pests in orchards. Agri. Ecosystems Environ. 50 special issue, 1994,85p.

28)Rish, S. J. et al. Agroecosystem diversity and pest control: data, tentative conclusions, and new directions. Environ. Entomol. 12, 625-629 (1983)

29)Root, R. B. Organization of a plant-arthropod association in simple and diverse habitats: the fauna of collards (Brassica oleracea). Ecol. Monogr. 43, 95-124 (1973)

30)Russell, E. P. Enemy hypothesis: a review of the effect of vegetational diversity on predatory insects and parasitoids. Environ. Entomol. 18, 590-599 (1989)

31)Sheehan, W. Response by specialist and generalist natural enemies to agroecosystem diversification: a selective review. Environ. Entomol. 15, 456-461(1986)

32)柴辻鐵太郎.ダイズネモグリバエに関する生態学的研究 (第5報)ダイズの麦間間作と発生の関係.応用昆虫.7, 73-74 (1951)

33)田村市太郎.作物除害通論.東京,産業図書,1949, 299p.

34)Van Emden, H. F. "Plant diversity and natural enemy efficiency in agroecosystems". Critical Issues in Biological Control. Mackauer, M. et al. ed. Andover, Intercept, 1990, 63-80

35)Vandermeer, J. The ecology of intercropping. New York, Cambridge Univ. Press, 1989, 237p.