2.病害虫・雑草防除
(6)環境保全型雑草防除技術
2)機械的防除
除草剤が出現する以前の雑草防除手段のほとんど全ては,手取り除草を含む機械的防除であった。ところが除草剤が今日のように急激に普及してくると,それに反比例して機械的防除の利用頻度は低下してしまった。これは本手段が除草剤による防除に比較して,一般に除草効果が低く,作業機が高価であり,作業能率が劣るなどの欠点があるためであろう。しかしながら機械的防除法は,人畜や生態系に対する悪影響がきわめて少ない点においては見直されるべき技術である。本手段の除草効果や作業能率の面については,現在のところ改良すべき点も多いが,雑草と作物を識別するセンサーを開発するなどのハイテク技術を駆使すれば,将来的には除草剤に劣らない能力をもつ除草機(除草ロボット等)の開発も夢ではないと考えられる。
ここでは機具を用いて雑草を除去する手段(狭義の機械的防除)だけでなく,何らかの物理的方法によって雑草を直接的に制御する手段すなわち物理的防除(広義の機械的防除)一般について述べる。
(a)機具の利用
耕うん機具:反転耕用機具と攪拌耕用機具とに分けられる。これらは砕土均平用機具とともに圃場を均平,整地して播種や移植に備えるための用途が主目的であるが,雑草防除効果も大きい。人力用としては鍬類,鋤類,トラクタには牽引用としてプラウ,駆動耕用としてロータリー耕うん機,ロータリープラウなどがある。作用深さは10〜30cmである。
プラウ等で12〜30cmの深さに耕起して地表面を反転すると,地表面近くの雑草種子や塊茎は出芽可能層より深く埋没するため,雑草発生数が著しく減少する(1,22)。また,秋期に反転耕を行うことによって多年生雑草の栄養繁殖器官を土壌表面に露出させ,冬期の低温と乾燥で死滅させることができる(12)。これに対し攪拌耕は,一般に雑草発生抑制効果は少なく,むしろ発生を促進する。この現象を利用して,秋に浅く攪拌耕を行って夏雑草の発生を促し,冬の寒さで枯らす方法もある。
中耕・除草・培土機具:人力用には鍬類,万能,ホー,動力用には全面除草用機としてウイーダー(ウイーダーマルチャー),畦間除草機としてカルチベーター,ステアレイジホー,ロータリーカルチベーター,ロータリーホー,水田用中耕除草機,畦内(株間,株ぎわ)除草機としてウイーダー,培土機,土入機 などがある。
ウイーダーは主として畑作物の生育初期の全面除草に使用する。枠に多数のばね歯かんをつけたもので,これをトラクタの後部に装着して引くと歯かんは浅く土を引っかき,ばねが働いて激しく振動するため土は細かく砕かれ土壌マルチを形成する。マルチ内の水分は急速に乾燥するので発芽したばかりの雑草は枯死する。土中での歯かんの作用する位置は雑草の発生深度より深く,かつ作物の発芽深度より浅いので,作物と雑草に対する作用に選択性がある。
カルチベーターは元来,畑の中耕を目的とする作業機であるが,いろいろな作業部品(爪や板)の交換により中耕,除草のほか培土,簡易整地など広い用途に使用されている。この機械は中耕には適しているが,除草性能はあまり高くなく,雑草が少し大きいと除草能力は急激に低下するので除草を兼ねて作業を行う場合には,できるだけ雑草の小さいうちに行なう必要がある。
ステアレイジホーは作条間の除草を主目的とした除草機で,構造は基本的にはカルチベーターとほとんど変わらない。この機械の特徴は雑草を地際部から切断する除草専用の爪刃を固定していることと補助者座席と操作レバーがついている点である。
ロータリーホーは数個のフレームに耕うん機のロータリーの小型のものを数個とりつけたものである。トラクタの後部に装着し,P.T.Oで駆動するものが多い。中耕および除草性能はカルチベーターより高く,特に除草性能に優れている。
水田用中耕除草機は人力用の転車型の除草機,自走式の動力中耕除草機,乗用型中耕除草機の順で発達してきた。しかし,現在では特殊な圃場を除き一般に中耕除草作業はほとんど行われておらず,ごく一部で,除草剤使用の不適切なための残存雑草の除去に実施されている程度である(15)。
畑地での中耕除草機の除草作用は装着する作用爪の種類によって異なり,ショベルおよびディスクは引抜きと埋没,スイーパーは断根の効果が高い(17)。中耕除草された雑草が枯死するか否かは土壌水分に大きく左右される。中耕による雑草の引抜きと断根,除草後の放置と埋没,土壌水分条件の乾燥区と湿区をそれぞれ組み合わせた8処理を施した実験によると(18),乾燥区の4処理はいずれも90%前後の高い雑草枯死率を示したのに対し,湿区の雑草枯死率は引抜き・放置区では約20%,断根・放置区では約40%,引抜き・埋没区では約60%,断根・埋没区では約80%であった。また,草種によって切断後の茎葉からの水分消失速度が異なっており,これが乾燥に対する耐性と大きく結びついていることも明らかにされている(11)。一方,土壌水分が多いと作用部品への土の付着や車輪のスリップなどにより作業が困難または不能となる。
中耕除草において土壌水分条件とともに問題となるのは畦内の雑草である。畑作物や露地野菜を対象とした機械的雑草防除に関する既往の研究(2,13,21,27)においても,中耕による除草作業のみでは畦内に雑草が残り,防除効果が不十分であったとするものが多い。畦内の除草には作物は残して雑草は除去する選択性が求められるが,機械除草は概して非選択性であるため,この面では大きな難点となる。しかし,前記のようにウイーダーにはこの選択性がある。古池ら(3-6)は,テイラーで牽引する機幅50〜60cm,長さ50〜70cmの畦内除草用のウイーダーを開発した。適用性が認められた作物とウイーダーの使用時期は,コムギ,ハダカムギは播種直後〜40日,乾田直播水稲,陸稲は播種直後〜30日,ラッカセイは播種後6〜20日,ダイズは播種後10〜20日,ナタネは播種後20〜40日,カンショは挿苗後15〜20日である。1回のウイーダー除草による作物の欠損率は2〜5%,除草率は80〜90%であった。さらに同氏らは,この小型トラクタ用ウイーダーを改良し,水稲用株間除草機を試作している(7,8,9,14)。
草刈用機具:人力用として各種の鎌がある。動力式草刈機には刈払機,ロータリーモーア,フレールモーア,レシプロモーア等がある。また,その支持および走行形式の違いから刈払機は肩掛式と背負式に,他の草刈機については歩行用と乗用トラクタ用に分けられる(16)。
刈払機は動力を持つ草刈機として最も小型軽量のものであり,手軽に持ち運びできることから水田の畦畔,果樹園,道路,山林など広く使用される。エンジン,遠心クラッチ,刈刃が基本構造となっている。刈刃は切込刃と丸のこ刃とがあるが,外周の1/4以上を防護するなど安全性が重視されている。
ロータリーモーア(ロータリーカッター)は,たて方向の回転軸に取り付けた板状の刈刃をもつ草刈機である。刈刃の直径は小さいものでは30cmから乗用トラクタの150cmにも及ぶものがある。刈幅90cm以上のものでは複数の刈刃を持つものが多い。刈刃には直線刃とスイング刃の2種類がある。石などの飛散を考慮して刈刃は刈刃ケーシングによって全面防護されている。果樹園などで広く使われている。
フレールモーア(ハンマーナイフモーア)は,横軸に「へ」の字型のフレール刃を多数取り付けたものである。刈刃の回転直径は25〜40cmに設定されている。刈刃の構造からロータリーモーアに比較し不整地に強く,また刈取高さを低くしてきれいに刈れるほか取扱性もよい。反面刈刃の枚数が多いため保守管理に手間を要する。作業能率はロータリーモーアと同等であるが刈刃の形状から果樹園内での刈残しはロータリーモーアに比べ若干多くなる。
レシプロモーアはバリカン刃または往復動刃と呼ばれるもので,山形をした上下2組の上側または両側が往復する構造になっている。この刈刃は本来牧草の収穫用として発達したもので,長い草を能率良く刈れる点に特徴がある。しかしロータリーモーアやフレールモーアに比べその構造,調整が複雑であるうえに取扱にも熟練を要することから,牧草収穫においても普及は減少傾向にある。
草刈用機具は芝地での芝管理,牧草地での採草などにも使われるが,除草を主目的として使用されるのは果樹園での草生法における下草管理,水田の畦畔の管理,非農耕地の管理などである。果樹園の草生法は被覆植物である草によって土壌および土壌中の有機物,無期栄養分の流出を抑えることができるため,傾斜地の多いわが国の果樹園に適した地表面管理法とされている。また,草の根が土壌を深層まで団粒化するほか,刈り取られた草が有機物として還元される利点もある。その一方で雑草と果樹との養水分における競合が欠点であり,とくに夏期乾燥地帯では水分の競合により干ばつをうけやすい。したがって,草生栽培においては適期に雑草の刈り取りを行うことが重要である(16)。刈り取りの雑草に対する効果は,再生のもととなる芽(休眠芽,腋芽など)が刈り取り位置より高い位置にある植物体は完全に枯殺でき,また,芽が刈り取り位置より低いものについても再生の際に貯蔵養分を消耗させることによって弱らせることができる(11)。雑草の刈り取りに対する耐性は,草種の生育特性によって異なるので,それぞれの特性に応じた刈り取り回数,間隔,時期,高さ等を考慮する必要がある(19)。
(b)マルチの利用
マルチ(マルチング)は作物の生育している圃場の土面をプラスチックフィルム(25),敷藁(23),敷草等によって被覆して雑草を防除する方法である。マルチ栽培は雑草防除効果のほかに地温の上昇または抑制,土壌の乾燥および侵食防止などの効果も兼ね備えているので,耕種的雑草防除に含める場合もある。マルチでは,主に遮光によって雑草の発生と生育を抑制するが,遮光性の少ない透明プラスチックフィルムでも上手に利用すれば高い除草効果を発揮する。例えば露地野菜においては,通常春〜秋の栽培では雑草防除のために黒色プラスチックフィルムが用いられるが,秋〜冬の栽培では地温上昇効果の高い透明フィルムが用いられる。この場合フィルムと地表面の間の隙間が大きいと発生した雑草が旺盛に生育し雑草害を及ぼすことがあるが,地表面とフィルムとが密着していると高温により雑草は枯死し,高い除草効果を上げることができる。
マルチ栽培は一般に畑作物,野菜,果樹などの雑草防除に適用されているが,最近,水稲の無農薬(除草剤)栽培における雑草防除の場面でも適用が試みられている(24)。この研究においては,マルチ資材として再生紙が用いられている点が特徴である。再生紙はマルチの役目を終えると溶けて土壌中に混入するので,プラスチックフィルムのようにイネの収穫時まで残存して収穫作業の妨げになる恐れがない。また,この再生紙マルチの遮光率は98%であり,雑草の発生および生育を十分に抑制しうるものである。さらにこの研究では,再生紙マルチを張りながら同時にイネが移植できる専用の乗用型移植マルチ機が開発されている。
(c)火の利用
火炎式除草機で直接枯殺する方法と焼畑のように火入れする方法とがある(11)。
火炎式除草機(火炎放射機)はふつう耕起前の水田,水田の畦畔,開園前の果樹園など作物の生育していない所で使用されるが(26),ダイズ生育期用の火炎式株間除草機も開発されている(10)。火炎式除草機では,雑草の地上部や地表面に落下した種子を枯殺するだけでなく病害虫の防除も同時に行うことができる。
火入れは収穫後の水田や畑地,自然草地,焼畑などで一般に行われる方法である。焼畑を想定した実験(20)では,火入れによる土壌温度の上昇は,地下2cmまでの層では200〜400℃以上の最高温度出現までの時間が25〜57分であるのに対し,地下3〜6cmでは100℃以上に上昇せず,所要時間も60分以上であった。メヒシバ,エノコログサの種子は土壌温度の継続時間が71℃以上では1時間,56℃以上では3時間で完全に死滅する。したがって,火入れによって土壌中の大部分の雑草種子が死滅するのは,地下3cm程度であろう。
(農業研究センター 高柳 繁)
文 献
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5)古池寿夫ほか.同上:第4報 水稲乾田直播に対する適用性(2).農機誌.36,243-250(1974)
6)古池寿夫ほか.同上:第5報 甘しょ・ラッカセイ・ナタネ・ダイズに対する適用性.農機誌.37,171-178(1975)
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