黒星病:幼果の病斑
幼果に生じた病斑(千葉農試提供)

ナシ黒星病の防除に関するツール

 I 発生生態編

1.胞子の種類と病原性

  1. 子のう胞子と分生子がある。
  2. 病原性はほぼ同等と判断して良い。

2.第一次伝染源の種類

  1. 落葉上に形成される子のう胞子
  2. 腋花芽基部(後に新梢基部病斑となる)上に形成される分生子
  3. 第一次伝染源としての重要性、すなわちどちらが第一次伝染源に強く寄与しているかでは、両伝染源が存在する場合、子のう胞子8〜9に対して分生子は2〜1である。

3.葉における黒星病の病斑型

  1. 春型病斑
  2. 秋型病斑

4.ナシの葉の黒星病に対する感受性

  1. 葉の春型病斑の黒星病に対する品種間差異
  2. 伸長した枝上の葉
  3. 幸水の葉の葉齢に伴う感受性変化

5.葉の濡れ時間、温度と発病程度との関係データはこちら

  1. 最適発病温度は20℃であり、次いで15℃、10℃で、25℃は10℃に近い程度であるがやや発病は少ない。
  2. 感染は20℃の場合、濡れ時間は9時間で成立する。
  3. 濡れ時間が12時間では、感染は5〜25℃の間で成立する。
  4. 6時間程度の保湿があるとごく一部の胞子は発芽し始めるが、その後の乾燥で多くの胞子は発芽能力を失うものと思われる。
  5. 胞子は24時間以内にほぼ発芽する。

6.葉における胞子形成

  1. 葉における胞子形成は、最も感受性が高い葉位4〜8(最上位展開葉からの葉位)の葉において感染後7〜10日後から開始され、胞子形成能力は葉肉部では短く、葉脈部、中肋部及び葉柄部では長期間に及ぶ。
  2. 葉肉部では病斑出現後から2〜3週間胞子形成されるが、その後通常病斑部分はえ死する。
  3. 葉脈部や中肋部では、病斑出現後から最低1ヶ月間は胞子を形成する。
  4. 葉柄に発病した場合、病斑は大きくなることが多く、しかもその上には多量に胞子が形成される。

7.発病による落葉

  1. 葉柄に病斑が出現すると約1ヶ月後には落葉することが多い。
  2. 葉柄に出現した病斑により落葉することが多いが、それには品種間差異がある。
  3. 幸水は最も落葉しやすく(イメージとしての数字では落葉し易さ80)、次いで豊水で(イメージとしての数字では落葉し易さ60)、新高ではかなり落葉しにくい(イメージとしての数字では落葉し易さ20)。

8.果実の黒星病に対する感受性の推移

  1. 開花直後から20日後頃までは品種間に差が無く、いずれも黒星病に対して感受性が高い。
  2. 開花20日後頃から品種固有の感受性程度が発揮される。
  3. 現在の経済的栽培品種の中では、幸水のみが際だって感受性が高い。

9.幸水の生育に伴う感受性の推移

  1. 幸水では、感受性の高い幼果期(開花直後から20日後頃まで)を過ぎると徐々に感受性が低下し、開花40〜50日後の期間は感受性が最も低く、その後再び徐々に感受性が高まり、開花60〜85日後は果実の生育後期では最も感受性が高い。
  2. 開花85日以降については、果実における潜伏期間が最短で15〜20日間あるので、したがって収穫期に達してしまうので、無視して良い。
  3. 幸水以外の栽培品種の場合、特別に果実の防除を意識する必要はなく、通常の防除において防除可能である。

10.果実病斑上における胞子形成

  1. 生育の後期に形成された果実病斑上にはやや少ない量の胞子が形成され、これも伝染源になる。

11.枝病斑における胞子形成

  1. 緑枝時期の新梢には黒星病菌が感染し、病斑が形成され、その上に葉の病斑の場合に近い程度の量分生子が形成される。
  2. 胞子を形成した病斑は、その上の胞子が降雨で洗い流されると胞子を形成し始めてから約2週間の期間は胞子を再形成するが、その後の胞子形成はほぼ無視できるほど少ないか全く形成しなくなる。
  3. 前年またはそれ以前に形成された病斑上には、いかなる伝染源も形成されない。


黒星病の生活史

 II 防除編

1.殺菌剤の効果

  1. 殺菌剤には、その作用性から予防剤と治療剤に分けられる。
  2. 予防剤の種類は多い。黒星病の防除に使われる代表的予防剤は、パルノックス水和剤(フロアブル剤も出てきた)、サニパー水和剤、ベルクート水和剤、有機銅フロアブル(商品名ではキノンドーフロアブル、ドキリンフロアブルオキシンドーフロアブルがある)、キャブタン剤(キャブタン水和剤とオーソサイド水和剤がある)。
  3. 予防剤の効果程度と推定される残効期間
  4. 治療剤の種類は少ない。黒星病の防除に使われる代表的治療剤は、エルゴステロール生合成阻害剤(以下DMIとする)、ストロビルリン系薬剤、キャブレート水和剤、トップジンM水和剤である。
  5. DMI剤の種類は多いが、効果と薬害から判断して、ここでは数薬剤に絞り込むことにした。すなわち、マネージ水和剤(×3,000)、スコア水和剤10(×4,000)、インダーフロアブル(×8,000)、アンビルフロアブル(×1,000)を使用する。
  6. DMI剤の効果と推定される残効期間
  7. DMI剤の中で幸水果実の生育後期に発生する果実黒星病に対しては、スコア水和剤10、インダーフロアブルとアンビルフロアブルの効果は高い。
  8. DMI剤の果実黒星病に対する予防及び治療効果と推定される残効期間
  9. DMI剤の果実黒星病に対する治療効果と推定される治療可能期間
  10. ストロビルリン系薬剤の種類は少なく、現在はアミスター(×1,000)とストロビー(×2,000)だけである。
  11. ストロビルリン系薬剤の葉の黒星病に対する効果と推定される残効期間
  12. ストロビルリン系薬剤の幸水果実の生育後期に発生する果実黒星病に対する効果試験は行っていない。薬剤の性質から推定すれば、あまり効果は高くないと思われる。
  13. ストロビルリン系薬剤の果実黒星病に対する予防及び治療効果と推定される残効期間
  14. ストロビルリン系薬剤の果実黒星病に対する治療効果と推定される治療可能期間
  15. 治療効果のある薬剤の中で、トップジンM水和剤はそれらに対する耐性菌が高密度に存在しているので、黒星病の防除には使用できない。輪紋病の防除には使用できる。

2.第一次伝染源の防除

  1. 耕種的防除
  2. 薬剤による防除

3.葉の防除

  1. 基幹防除の時期
  2. 時期別使用する薬剤とその効果及び残効期間

4.果実の防除

  1. 重要な散布(防除)時期
  2. 薬剤と効果

5.秋季防除

  1. 秋季防除とは、2種類ある第一次伝染源の中腋花芽鱗片上に形成される病斑を防ぐために、病原菌の感染時期である前年の秋に予防剤を散布して感染を防ぐ防除法である。
  2. 散布回数  2回とする。
  3. 散布時期  落葉期から逆算して落葉期25日前(10月下旬)と落葉期10日前(11月上旬)。
  4. 使用薬剤

※ 参考資料

Copyright (c) 1999- 千葉県農業試験場

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