1999.11.30 第2回農業情報研究会 [農業情報学 2:74-77, 2000]

WWWによる野菜生理障害データベースの利用

菅原幸治(農業研究センター研究情報部)

【はじめに】

 各地の農業関連試験場の多くでは、その管轄地域で収集された様々な情報を整理して独自のデータベースを構築しており、これまで主に地域の関係者を対象にそれらの情報が提供されていた。一方、近年WWW (World Wide Web)による情報提供が広く普及し、これを受けて各地で農業関連情報をWWW上で配信しようとする取り組みがなされている。ここでさらに、WWWという場をより有効に活用すれば、各地で蓄積されている情報の共同利用が可能となると考えられる。
 ここでは、以上のような構想の一環として、野菜の生理障害事例のデータベースを、WWWを通して共同利用できるシステムを開発したので報告する。

【野菜生理障害事例データベース】

 作物に発生した生理障害の事例情報は、各地の農業関連機関が収集しており、土壌分析等の調査データとともに長年にわたって蓄積されている場合が多い。もしこれらの事例やデータがWWWを通じて一般に公開されるようになれば、生理障害の原因や対策の判定に非常に役立つと考えられる。さらに、これらの情報がデータベース化されれば統計的解析が容易になり、生理障害の発生あるいは予防に関して新たな知見が見出される可能性がある。今回開発した野菜生理障害事例データベースシステムは、主に農業関連の研究者や普及員を対象に、野菜の生理障害事例ならびに要素分析データの共同利用を目的として、各機関が所有する情報を公開、共有できる場(WWWサイト)を提供することをコンセプトとしている。
 本システムは、高知県農業技術センター 山崎浩司氏(現所属:高知県農林水産部農業技術課)が開発した作物生理障害事例データベースおよび検索システム(1991)を下地にしており、これをもとに、Active Server Pages によるWWWアプリケーションサイトとしてシステムを構築した。以下のURLにアクセスすることでデータベースシステムを利用できる。

http://riss.narc.affrc.go.jp/sspd/

 このサイトでは、いくつかの項目に任意に検索値を入力して、野菜の生理障害事例を検索できる。また、登録ユーザになることでデータの登録ができるようになる。なお、現段階では文字情報のみであるが、今後は画像表示にも対応する予定である。

【本システムの内容】

1.WWWアプリケーションとしての実装
 システムをWWWアプリケーション化するために、Microsoft社が提供するActive Server Pages (以下ASP)技術を利用した。ASPとは、サーバサイドでスクリプトを実行して、クライアントからの要求に対する処理結果をHTMLとして送信するWWW情報管理技術である。さらにODBCドライバおよびADOコンポーネントを介することでサーバ内のデータベースを操作することができる。本システムの構築のためにASPスクリプトを作成し、ブラウザを通してWWWページからユーザの認証・登録ならびにデータの検索・登録がすべてできるようにした。なお、開発ならびに動作環境として、MS Windows NT Server 4.0、IIS (Internet Information Server) 4.0、ASP 2.0、JavaScript 1.2を用いた。また、オリジナルのシステムではDBMSはdBASE V plusであったが、これをMS Access 97ファイルに移植した。
2.ユーザ認証
 本システムの利用に際しては、まずログインページ(第1図)からユーザIDとパスワードを入力してログインする必要がある。これはデータベースの改ざんを制限するためであり、登録ユーザになると、データの登録・更新・削除ができるようになる。ただし、データの検索を行うだけであればID“guest”で誰でもログイン可能である。なお、ユーザレベルの仕様として、guestユーザ、一般登録ユーザ、ならびにシステム管理者の3段階を設定している。
 登録ユーザになるための手続きについては、本WWWサイトの説明書きを参照いただきたい。
3.データ検索
 作物名、生理障害名、障害部位、症状、あるいは発生原因から任意に検索値を入力して、登録されている生理障害の事例ならびに要素分析データを検索することができる。
 まず、検索値指定ページ(第3図)で、フォームに検索したい項目を選択あるいは記入した上で、検索結果として表示させる項目を指定する。“検索開始”ボタンをクリックすると検索結果表示ページ(第4図)に移動し、検索値に適合した生理障害事例が一覧表示される。個々の事例について情報を詳しく見る場合は、各事例データの番号をクリックすると事例詳細表示ページ(第5図)に移動する。さらに、生理障害事例に土壌・培養液・植物体の要素分析データが付いている場合は、検索結果ページおよび事例詳細ページでそれぞれへのリンクが表示され、クリックすると要素分析データ表示ページ(第6図)に移動する。このページでは、1つの事例に対するデータセットが複数ある場合、要素ごとに分析値を一覧表示させることができる。要素分析データには、障害が発生したものと対照の健全なものとがあり、双方の分析値を比較できる。
4.データ登録
 前述したように、登録されたユーザがIDとパスワードを入力してログインした場合のみ、生理障害事例ならびに要素分析データの新規登録(第7図、第8図)・変更・削除が可能になる。本システムでは、データの管理について基本的にそのデータの登録者が行うものとしており、データの変更・削除はそのデータの登録者およびシステム管理者以外できない仕様にしている。
 なお、データベースに登録されている生理障害事例ならびに要素分析データは自由に引用または転載することができる、とした。ただしその場合には、高知県農業技術センター・農水省農業研究センター編 『野菜生理障害事例検索システム』 による旨を文献等に明記することを規約とした。

[第1〜4図]  [第5〜8図]  (PDF形式ファイル)

【今後の課題】

 現在、野菜生理障害事例データベースの利用拡大に向け、高知県農業技術センター以外にも独自のデータベースを保有している国や県の農業関連機関に対して協力を要請している。これまでに、石川県農業総合研究センターよりデータ提供の承諾をいただいた。ただし、公開したデータは実質的にフリーとなる以上、データの所有権に対する県ごとの対応に十分配慮する必要がある。
 一方、データベースによってデータフォーマットが異なることから、今後は共通のフォーマットによるデータベースの再編成、あるいは共通のインターフェースを提供するコンポーネントの作成などを進めていく予定である。

【参考文献】

Internet Workshop 2000 発表要旨(英語)

「野菜生理障害事例検索システム」利用説明

Copyright (C) 1999 NARC