はじめに
千葉県におけるナシ栽培面積は約1750ha,粗生産額は約147億円(全国1位,1998年)となっている。ナシの病害防除については,県および経済連が毎年作成する防除暦に従い,ナシ黒星病およびナシ輪紋病を主な対象に,年間12〜15回の薬剤散布が指導されている。
一方,「環境と調和した持続可能な農業」は国際的な流れであり,特に農薬や化学肥料の投入量を効率的に削減することが大きな課題となっている。 千葉県では1993年度からナシ栽培における殺菌剤の使用の3割削減を目標とした防除体系の確立に取り組み,すでに年間8〜9回の薬剤散布で防除暦に従った場合と同等の効果が得られることを示し,さらなる散布回数の削減を目指している。 散布回数の効率的な削減には,病害発生予察にもとづく薬剤散布の要否,時期の判断が必要である。この判断・指導を経験豊富な病害の専門家だけではなく,生産者に直接指導できる立場の普及センターなどでも可能にするための病害管理支援システムの構築が望まれている。
このような背景から,千葉県農試では1999年度より農業研究センター研究情報部と,「ナシ重要病害総合管理技術の体系化とインターネットを活用した支援システムの構築」を目指した共同研究を開始した。ここでは病害発生予測手法のひとつである気象情報を利用したナシ黒星病感染好適日予測モデルについて報告する。ナシ黒星病感染条件と予測モデル
病原菌の植物体への感染は,潜伏期間を経て発病するまでは肉眼では確認できない現象である。そこで感染の成立に必要と考えられる気象条件から間接的に感染確率を推定するモデル(MacHardy and Gadoury,1989)を応用することにした。
感染が成立し,ある一定の発病度 I に達するために必要な濡れ時間 TI を,その期間中の平均気温tの関数として次の推定式で表した。TI = 1/ (AI + BIt + CIt2) ‥‥‥‥‥(1)
ここで AI,BI,CI は発病度 I に依存した係数である。各係数(表1)はUmemoto(1991)の接種試験によるデータから求め,その結果を図1に示した。
濡れ持続時間および気温を用いた発病度の推定方法には,さらにいくつかの方法が提案されており,今後上記の推定式以外のモデルも導入して,黒星病感染推定の精度を比較検討する予定である。表1 (1)式における発病度Iに対応した AI,BI,CI 値
図1 ナシ黒星病菌のナシ葉における発病度と,葉の濡れ時間および温度との関係
感染成立に必要な最短濡れ時間は約9時間(Umemoto, 1991から作成)感染好適日予測モデルのネットワーク上での利用
現在,千葉県農試内のナシ園に濡れセンサー(平板型およびシリンダー型)を設置し,濡れ程度を気温,日射量と同時に計測している(図2)。前述した感染好適日予測モデルはすでにJava applet化され,ナシ園の実測値を用いた予測結果をWeb上に表示することができる(図3)。 今後,感染好適日予測モデルを広範な地域に適用するには,一般気象観測で行われていない濡れ時間の推定が問題なる。そこで,1)いもち病感染好適日予測モデルBLASTAMと同様に,アメダスデータから濡れ時間を推定する方法や,2)気温,日射量などから葉面のエネルギー収支を計算するモデルの適用を検討中である。 また,これに必要な気象データは,農業研究センター研究情報部で開発された気象データ仲介サーバー(MetBroker)を介して取り込む予定である。図2 ナシ園における濡れセンサーの設置状況
・外側の2つが平板型(Campbell社製),内側の2つがシリンダー型(自作)図3 ナシ黒星病感染好適日予測モデルによる予測結果のWeb上における表示例
参考文献
MacHardy, W. E., and Gadoury,D. M. 1989. A revision of Mills's criteria for predicting apple scab infection periods. Phytopathology 79:304-310.
Umemoto, S. 1991. Relationship between leaf wetness period, temperature and infection of Venturia nashicola to Japanese pear leaves. Ann. Phytopath. Soc. Japan 57:212-218
[ナシ病害管理支援システムの開発構想] [ナシ試験研究情報サイト]
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